第2話:距離感はバグるもの







 吸血鬼、吸血鬼、吸血鬼。

 人の生き血を吸って生きる、あれ?蝙蝠とか連れてて、夜に生きる、あの吸血鬼?

 俺の混乱を見て取ったらしい譜さんが、ふ、と軽く息を吐く。

「ヨル君の考えてるそれで間違いないと思うよ。ほら、呑んだでしょ? 」


 言い終わって、口をかぱり。指差す上部横の歯は、牙のごとく尖っていた。てらてらと赤い舌で牙の裏を舐める動きが、何とも艶かしくて、俺は思わず目を逸らす。と、いうか。吸血鬼って。

「実在、するのかよ……!? 」


 そう言ったところで、思い至る。これまで数多のイケメンやカースト上位に靡かなかった彼女が、俺の告白だけ即OKした訳は、まさか。

「まさか、俺の血液が狙い!? 」


 思わず叫ぶ俺に、にこり、譜さんが微笑んだ。


「ごめんね、そのまさかなの」




「譜の大好きなAB、しかもRh−って中々居なくって。やっと見つけた君が告白してくれたんだもの。譜、どれだけ嬉しかったか! 」

 



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 彼女の言が、事実ならば。譜さんが、俺の告白だけ特別にOKしてくれた訳。それは、言うなれば変化球の体目当てなのであって。


 それでもいい!いつか絶対中身で振り向かせてみせる!と俺は悲壮な決意を胸に気合を入れ直した。


 の、だが。


「…………」

「さっきはごめんね。お腹空いたでしょ?ほら、たくさん作ったから好きなだけ食べて、ね? 」

「あああああああの、譜さん! 」

「なあに? 」

「刺激が強すぎて、鼻血が出そうです……!! 」


 俺は今、豪勢な手料理が並んだ机を前に、譜さんにむぎゅりと抱きつかれて居た。え、いや、血液だけ目当てならこれはおかしくないか?なにこの距離?そんな俺の混乱を知ってか知らずか、譜さんはぐっと近くなった顔をにこりと微笑ませた。わあ、眩しい。




 なんだこれ、なんだこれ。胸が柔らかい。いいにおいで、身体中あったかい。パンイチの脚に、譜さんの生脚が絡んで、ふにゅんと。こんなバグった距離感で、態度で、俺が平常心で居られるわけもなく。


「だいじょうぶ。鼻血が出たら譜が舐め取って介抱してあげるから」

「〜〜!! 」


 トドメとばかりに囁かれた言葉といっそう存在感を増した胸の感触に、俺はあっけなく「介抱」と相成ったのであった。


「さ、ヨル君。リラックス、リラックス……」

(で、で、で、出来るか……ッ!! )

「ん、あう、ヨル君の血、最高……!! 」

 






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