完璧彼女の危険な秘密〜憧れの先輩が交際早々吸血してきた件〜

樹 慧一

第1話:俺の血液蜜の味







「ね、いいでしょ。譜に君の全部、ちょうだい……?」

「譜さん、待っ……あ、ああ……ッ!? 」


 甘い香りが漂う、憧れの先輩の部屋で。俺に跨った部屋の主の地毛らしい長い銀糸が眼前に揺れる。紫がかった珍しい赤い瞳は熱っぽく潤み、上気した肌はただただ眩しい。柔らかいVネックからは、ちらと白い胸の谷間。触れられた箇所が、すこぶる熱い。

 この状況は、何だ!?


「もう我慢できないの、ヨル君……!!」


 言った彼女の口が、悩ましく開いた。ほっそりとした優美な手は俺のズボンを掴み、待ちきれないようにチャックへと掛かる。

 そんな、そんな、まさか。

 交際初日で、卒業、なのか!?そう思った、刹那。


「っぎゃああああああーーッ!? 」


 先輩が、俺の太もも付け根へ噛み付いた。




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 先輩との出会いは、ふた月前の新歓コンパまで遡る。


 大学デビューと洒落込みたかった俺は、そこで一発勝負に乗り出した。

「1年、生多ヨル!血液型ABのRh−!趣味は献血マンです!! 」


 何もかも平凡な俺の唯一のレアステータス、血液型。それに奉仕の精神も織り込んだ、考えに考えてたどり着いた渾身の自己紹介。ちょっと変わってる感もあって、俺の中では100点満点だったそれ。


 しかし、自信満々に大声でかました一言は、微妙な空気感を持ってコンパの会場へぼとりと落ちた。


 白ける場、ドン引きの先輩同級生。そんな絶望的な状況の中、唯一笑顔で拍手をしてくれたのが、彼女――大学のマドンナ、「夜辺譜」だった。その笑顔の眩しさに、優しい拍手に、俺は、俺は。


 人生初の、一目惚れをした。




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「あ、んぅ、おいし……!! 」

「痛っ、……は、ええ? 」

 時を戻して、現在。そんな先輩――譜さんが、先程まで目映く微笑んでいたはずの彼女が。


 噛み付かれた俺の傷口から出る血液を、一心不乱に吸っている。


 そんな予想外の方向に非現実的な状況に、俺は下半身パンイチと言う間抜けな格好で、ただただ転がるしかなかったのだった。

 







「ごめんね、ヨル君!やっと二人きりになれたと思ったら我慢できなくて。譜、つい……! 」

「は、い……大丈夫、です……? 」

 想定外に過ぎた時間から、少し。あんなはしたないことを!と顔を赤らめて謝る譜さんに、呆け半分で言葉を返す。


 さっきの譜さん、こう言うのはなんだけどエロかったな。アングルによってはアウトだろ。いや大学生ならOK?セーフ?衝撃的なことをされた割にぼけぼけと呑気な考えを巡らせていた俺の平常心は、次の一言で吹っ飛んだ。


「あ、のね。ヨル君。言ってなくて本当に申し訳無かったんだけど、ね」




「譜、――吸血鬼なの」

「吸血、鬼!? 」






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