第17話 【アラン側のお話】
ドラゴンの死体をもって、僕は冒険者ギルドを訪れる。
きっとみんな僕のやったことに驚くぞ……!
ちょっと人目の少ない時間を狙ったから、ギルドに来るのが遅くなってしまった。
なぜだかはわからないけど、昨日までギルドにはものすごい数の人が集まっていた。
さすがにあれだけの人混みの中にいくと、僕の正体がばれてしまいかねない。
一応僕は指名手配されているのだ。
【魔女の変装マント】は正体を隠せるけれど、そこまで万能というわけではない。
人混みでもみくちゃにされて、マントがはずれでもしたら大変だし、それに密着されるとどうしても知っている人にはばれてしまう。
それに、ギルドにはどうやらジャスティスたちもいたみたいだし……。
あんなに冒険者を集めて、いったいなにをやっていたんだろう。
なにかのイベントだったのかな?
まあ、今日はそんな騒動はもう終わったようで、ギルドには少しの人しかいない。
見渡してみても、ジャスティスたちの姿はない。
あくまでまだジャスティスたちの前で目立つわけにはいかないのだ。
僕の正体はなるべく隠しておいて、最後にここぞというときに正体を明かすんだ。
そうすればきっと、みんな僕を見返すし、僕の罪も許されるだろう。
とにかく今は正体を隠して、僕の功績を積み上げるんだ。
ギルドには受付嬢と、ほんの数名の冒険者しかいない。
これは絶好の機会だということで、僕はさっそくカウンターに向かう。
そしてドラゴンの素材の一部を取り出して、クエストカードを差し出す。
僕は追われる身だし、クエストを受注するときは受付嬢さんに話をせずに勝手に持って行ったけど……。
さすがにクエスト完了の報告だけはそうはいかない。
受付嬢さんに話をしないと、クエストクリアの報酬はもらえないのだ。
「ドラゴンを討伐してきた。換金してもらいたい」
僕はかっこよくそう言って、カウンターに肘を置いた。
「こ、これは……!?」
ふっふっふ……受付嬢さんの顔を見たか……!?
受付嬢さんは、僕の出したドラゴン素材を見て、目を丸くした。
まるで死人でも見たかのように、これ以上ない驚きを見せている。
僕の作戦通りだね。
僕には受付嬢さんの思っていることが手に取るようにわかる。
(この人、ドラゴンを一人で退治してきたなんて……! すごいわ、何者!? こんな貴重な素材、年に一度も手に入らないわよ! 素敵、抱いて!)
きっと彼女はそう思っているに違いなかった。
僕は思わず、にやけてしまう。
しかし、受付嬢さんの様子が少しおかしい。
本来ならもっと、すぐになにか言葉を発してもよさそうなものなのに……。
受付嬢さんは困惑しているようだった。
あれ? おかしいな……。
だんだんと受付嬢さんの表情が曇っているように見えてきた。
これはもしかして……僕のすごさに驚いているというわけではないのか……?
なんというか、驚愕しているというよりもむしろ、引いているような感じだ。
「あ、あなた……自分がなにをしているか……わかっているんですか……!?」
「え…………?」
受付嬢さんは、とたんにそんなことを言い出した。
どうも僕をほめているというわけではなさそうだな?
「なにって……僕またなにかやっちゃいましたか? ドラゴンをソロで倒してきただけですけどね……?」
僕は自信満々にそう言った。
だって、ドラゴンをソロ討伐なんて、ほかに聞いたことないからだ。
そんなことができるのは、
今の僕は、勇者の剣を持っているし、スキルも覚醒して強くなった。
客観的に見て、
そんな僕だけに許されるセリフ。
これには受付嬢さんもしびれただろうね。
「あ…………」
受付嬢は開いた口がふさがらないといった感じだ。
やっぱり僕のすごさに驚きすぎちゃってるのかな?
きっとそうに違いないね。
さっきまでの不審な挙動も、きっとあまりのイレギュラーな事態に驚いてしまっていただけなのだろう。
あ、ほら……受付嬢が笑顔になった。
やっぱり受付嬢さんは僕のすごさに惚れちゃったのかもな?
って……あれ?
おかしいぞ……受付嬢さんの目が、僕のほうを見ていない。
それどころか……僕の、後ろ?
僕は恐る恐る、後ろを振り返った。
「あ、ジャスティスさん……!」
(ジャスティス…………!?)
そこには、僕をかつて追放した憎き敵、ジャスティスがいた。
受付嬢さんはどうやら、僕ではなくジャスティスを見て笑顔になっていたようだった。
でも……なんで!?
なんでジャスティスがここにいるんだ……?
しかも、なんで受付嬢はジャスティスなんかを見て笑顔になる!?
僕がなにがなんだかわからずに混乱していると……。
ジャスティスが急に僕の腕をつかんできた。
どうしてだ……僕の正体はばれていないはずだが……!?
「ちょっとあんた。裏まで来てもらおうか」
「は……?」
ジャスティスは急に、そんな衛兵みたいなことを言い出した。
まさか僕の正体が……いや、それはないな。
でも、僕がいったい何をしたというんだ!?
「自分がなにをしたのかわかっていないようだな?」
「ぼ、ぼぼぼ僕がなにをしたっていうんだ……!?」
言いがかりをつけるなら、なにかそれなりの理由があるはずだ。
それに、ジャスティスなんかに衛兵を気取られるのも癪に障る。
こいつは、ギルドの警備員にでもなったつもりか……!?
「僕はなあ、ドラゴンを倒したんだぞ! その英雄になんだこの仕打ちは! このギルドはどうなっている!」
僕は声を荒げて言った。
こうなったら、徹底的にギルドを追い詰めてやる。
僕を馬鹿にした受付嬢も首だ。
僕はドラゴンキラーなんだから、出るところに出れば僕が勝つ!
きっと王国は僕のような真に力のある冒険者を求めているはずなんだからな!
「だから、そのドラゴンを倒したのがまずいんだよ……!」
ジャスティスは僕にそう言い放った。
「え…………?」
ど、どういうことだ……!?
「あんたは知らないかもしれないが、ドラゴンを勝手に殺すことは違法なんだ。それに、仲間のドラゴンたちも怒っている」
「そ、そんな馬鹿な……!」
ドラゴンを勝手に倒すのが違法だって……!?
あれだけクエストボードにクエストを貼っておいて、そんなのばかげているじゃないか!
そんなのにいちいち許可がひつようだなんて、面倒な世の中だ!
「ちゃんとクエストカードにも書いてあるはずだがな? 説明を読まないのか?」
「っく…………」
僕は今までは、あくまで荷物持ちだったから、そんな詳しいことは知らなかった。
ジャスティスだってよくクエストを勝手に受けていたし……。
僕としたことがうかつだった……。
まさかクエスト受注にそんなルールがあるなんて……!
「ということでだ、お前は違反者として裁かれる。わかったな……?」
「っく……う、うるさいうるさいうるさいうるさいっ!」
「あ! 待て……!」
僕はその場から逃げ出した。
ただでさえ僕は指名手配をされているんだ。
これ以上罪を重ねるのはごめんだ。
それに、もし僕がアランだとばれてしまったら、そんなの耐えられない。
ジャスティスなんかに罪を裁かれるなんて……!
そんなの惨めすぎる!
ジャスティスを刺して逃げた上に、さらにジャスティスに罪をとがめられるなんて!
僕は必死に走って、ギルドの出口を目指した。
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