第16話 やっぱり俺が主人公


 しばらく草原で待機していると、遠くの空からドラゴンがやってくるのが見えた。

 一匹の巨大な竜が、空を飛んでいる。

 どうやらあいつがボスらしいな。

 その下に、何体かの小さめのドラゴンが飛んでいる。

 さらにその下の地面を、非飛竜ラプトル型のドラゴンが走ってついてきている。


 俺たちはあらかじめ用意していた、龍語で「止まれと」書かれた旗を振り上げた。

 意外にもドラゴンたちはすんなりと足を止めてくれた。

 やはりドラゴンというのはかなり知能の高い存在らしい。

 龍語が失われてしまっただけで、本来はドラゴンとも共生できていたのかもな。

 ラフィアの通訳を借りれば、彼らとも分かり合えるかもしれない。


 ボスドラゴンは、羽を下ろして地面に降り立った。


「グオオオオオオ」

「なんて言ってる?」


 俺はラフィアにたずねる。


「我、復讐をする者。人間よ、なぜ我を止める」


 ラフィアはドラゴンの言葉をそう通訳した。

 俺も言葉を発して、ドラゴンに伝えてもらうことにしよう。


「ドラゴンさん、そっちの事情は知っている。気持ちはわかるんだが、街を攻撃されるのは俺たちも見過ごせない」

「だが、我々の気持ちはどうなる! 倒されたのは我らが尊敬するリーダーのドラゴンだった」


「犯人は必ずこちらで調べるから、それで勘弁してもらえないか?」

「むぅ…………。ドラゴンは、弱い人間の言うことなんか聴かない。貴様の強さを示せ」


「なるほどな……決闘か。だったら、受けてたとう」

「愚かな人間だ……!」


 というわけで、このドラゴンを負かせば、俺の言うことを聞いてくれるそうだった。

 まあ、それで解決するなら話が早い。


「ねえ大丈夫なのジャスティス……」


 マチルダが心配そうな顔をする。

 まあ、俺は主人公だから負けることはないだろう。

 こっちにはラフィアもいるし、俺には真の勇者の力もあるからな。


「心配はいりませんよマチルダ。ジャスティスが負けるわけありません。それに、もしなにかあっても、必ず私が守りますから」


 とユリシィがマチルダに言った。

 頼もしい限りだ。


「よし、じゃあラフィア……力を貸してくれ!」

「うん、わかった」


 すると、ラフィアは剣の形態に変化した。

 俺は剣となったラフィアを構えて、ボスドラゴンと対峙する。


「グオオオオオオ!!!!」

「……なんて言ってる?」


 剣となったラフィアにたずねると、ラフィアは俺の頭の中に直接語り掛けてきた。


「覚悟しろ、弱き人間よ。龍の怒りを思い知れ」

「なるほどな……! それならこっちも本気でいくぜ!」


 どちらからともなく、戦いの火ぶたが切られる。


「グオオオオオオ」

「うおおおおおお」


 俺はドラゴンに向かって剣を突き立てた。

 ドラゴンもこちらに向かって突進してくる。


 ――ズシャアアアア!!!!


 俺の剣が、ドラゴンの肉を切り裂く。

 もちろん殺さないように、なるべく急所を避けて当てた。

 ミイラ取りがミイラになったら困るからな。

 万が一にも俺がこのドラゴンを殺してしまうわけにはいかない。

 それに、今の一撃で俺の実力はわかったはずだ。


「グオオオオオオ」


 地面に倒れたドラゴンは、気の抜けた声でそう唸った。

 ラフィアに通訳させる。


「なんと強い人間だ……。感服した」

「だったら、俺の言うことを信用してもらえるか? お前たちのリーダーを倒した奴は必ず見つけるから、とりあえず今は手を引いてくれないか?」


「わかった……」

「よし」


 どうやらドラゴンは強者には屈するという性質があるらしい。

 ドラゴンにおいて決闘での約束事は絶対だという。

 ただし、ドラゴンは不意打ちや闇討ちをとことん嫌うのだとか。

 正々堂々と潔くがモットーの種族らしい。

 だからこそ、なんの前触れもなくリーダーを殺されたことにあれだけ憤ったのだろう。

 人間と勝負して、正々堂々と負けたうえで狩られることについては、なんとも思っていないそうだ。

 するとボスドラゴンは俺に向かって、おかしなことを言いだした。


「ただし、我をそばに置いてもらいたい。あなたのような強い人間は初めてだ。それに、そのほうが約束を違えないだろう? 我もそばで犯人を捜したいのだ」

「え……?」


「テイムしてもらえれば、言葉も通じるようになるはずだ。正確には気持ちが通じるという形だが」

「え……? テイム? そんなの、俺やり方しらないが……」


 俺がそう困惑していると、ラフィアが自分の言葉で話した。


「大丈夫。ジャスティス、勇者の力でテイムできる」

「あ、そうなの」


 俺はラフィアに言われるがまま、ドラゴンの額に手をかざした。

 そして――。


「テイム……!」


 まばゆい光に包まれて、ドラゴンの額に文様が現れた。


「主殿……! これからよろしくお願いします」

「おお……! 言葉がわかるぞ!」


 どうやら主従契約を結ぶことで、その種族の言葉がわかるようになるらしい。

 それにしても、ドラゴンをテイムできてしまった。

 やっぱり俺が主人公だなぁ。

 こいつはきっと相棒枠のモンスターに違いない。


「すごいですジャスティス……本当にドラゴンをテイムしてしまうなんて……!」

「前代未聞よ、本当に……! どこまで規格外になるんだか……」


 ユリシィとマチルダもそう言って驚いた。

 なにより驚いていたのは、同行した冒険者たちだ。


「すげぇ……本当にドラゴンをなだめて、しかも仲間にしちまったぜ……」

「さすがは勇者だな。ジャスティス……悪い評判も聞いていたが、これは本物の勇者さまだ……!」

「ジャスティスにかかれば、犯人もすぐにみつかるだろう……!」

「ドラゴンをテイムした人類なんて初めてじゃないのか!?」


 などと、みんな一斉に俺を褒めたたえる。

 これは主人公ムーブとしか言いようがないだろう。

 たぶんこれも原作通りのイベントだと思う!

 俺はなんだかんだでうまくこの世界でやっていけそうだ。


「では主。我に名前をお与えください」


 ドラゴンが俺に頭を下げてそう言った。

 そうか、名前が必要だよなぁ……。


「えーっと、じゃあ……ゲイルでどうだ?」

「わかりました! これからはゲイルの名を名乗ります! 気に入りました! 強そうな名前です! さすがは強き我が主!」


 どうやら気に入ってもらえたみたいだな。

 俺の読んでいた別の小説に出てくるドラゴンの名前だったんだけど。

 とっさに思い浮かんだ名前がそれだった。


「それにしても、その図体じゃあ街に入れないだろう? どうするんだ? 普段はドラゴンマウンテンに居るか?」


 ゲイルの体は、全長5メートルくらいはあった。


「それなら心配ありません!」


 するとゲイルはしゅるるるっと手のひらサイズに小さくなった。

 そして小さな羽をパタパタと羽ばたかせ、俺の肩にちょんと乗る。


「おお……! どうなっているんだ……!?」

「テイムされたモンスターは、こうやって主に都合のいいサイズになれるのです」

「そうなのか……」


 さすがは異世界だ。

 そういうところはしっかりと対策がされているんだな。

 これも魔法の一種なのだろうか。

 小さくなったドラゴンはなんだかかわいらしかった。


「それじゃあ、さっそく犯人捜しといこうか」

「頼もしいです、主!」


 俺たちはなんとかドラゴンを説得することができた。

 まあ、これから犯人を捜さないといけないけど。

 ゲイルについてきたほかのドラゴンたちには、ドラゴンマウンテンにかえってもらった。

 これでなんとか町を守ることができたけど……。

 犯人を見つけられなかったら、またゲイルは怒り出すだろうし。

 まだまだ気は抜けない。

 だが、俺は主人公だから、すぐに見つけられるだろう。

 そんな根拠のない自信があった。

 だって、ドラゴンをテイムからの犯人捜しイベントって、いかにも原作にもありそうな感じだ。

 きっとこれが正規ルートに違いない。

 正規ヒロインであるラフィアがドラゴンの言葉を話せるのだって、正規ルートとしか思えないくらいのご都合展開だしな!

 次回の展開も、見てくんないと、暴れちゃうぞ!

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