第12話 主人公ってみんなこうなのか……?


「さて……ここがホテルか……」


 俺は三人にひっつかれながら、引きずりながらも、ようやくホテルにたどり着いた。

 さすがは街一番のホテルなだけあって、見るからに高そうで豪華だ。

 こんなところに泊れるなんて、すごく贅沢な冒険だなぁ……。


 俺はホテルの受付嬢さんに、事情を説明する。

 パーティーメンバーから、一人抜けたこと。

 それから、新しく一人加入したこと。

 つまり、泊るメンバーの名前が変わったってこと。


「分かりました。では、そのように処理しておきますね」


 と、受付嬢さんはなにやら宿泊者名簿的なものを、書き換えた。

 それで、俺たちは部屋へと向かった。

 マチルダとユリシィに先導してもらったから、迷わず部屋へとたどり着いた。

 しかし、俺は気づくべきだったのだ。

 なにやらホテルについてから、さらにこの2人、険悪な雰囲気が流れている。

 いったいどういうことなのだろうか……。

 部屋の前で立ち止まり、動かない二人。


「あの……」


 俺は見かねて、そう言いかけるが。

 マチルダが口を開き、それを制止する。


「それで……誰がいっしょに寝るの……?」

「あ…………?」


 マチルダの言葉を聞いても、俺は首を傾げるばかりだ。

 こいつは険しい顔で、一体何を言っているのだろうか。


「だから、誰がジャスティスと寝るのかって聞いてるのよ!」

「は……? ちょ、ちょっと待ってくれ……状況が理解できない!」


 俺は慌ててマチルダに訊ねる。

 いったい俺のあずかり知らぬところで、なんの戦いが始まろうとしていたんだ……!?


「そうね……新しく来たラフィアにもわかるように説明するわね」

「…………?」


 ラフィアはそう言われても、俺と同じく首をかしげるだけだ。

 やはりラフィアもなんのことかいまいちよく理解できていない様子。

 ラフィアへの説明は、そのまま俺にとってもいい説明になる。

 なにせ俺は、このパーティーどころか、この世界に来たばかりだからな。

 わからないことだらけだから、本当はもっと説明をしてもらいたいくらいなんだ。


 マチルダの説明によると、こうだ。

 俺たちは、俺、アラン、マチルダ、ユリシィの4人パーティーだった。

 しかも、ちょうど男女で2対2に分かれているのだ。

 そのため、宿をとるときは、必ず二部屋とっていたそう。

 まあ、当然と言えば当然だな。

 若い男女が、4人も入り乱れて同じ部屋になんて泊まれるはずない……。

 だから、今回も例によって、二部屋が用意されている。


 しかし、問題はここからだ。

 新しくパーティーに加入したラフィアは女性。

 メインヒロインなのだ。

 そして部屋は2つ。

 ベッドは各部屋に二つずつ。

 ということは必然、誰か一人が俺と同室になる必要がある。


 って……ちょっとまてよ……!?

 なんでそうなるんだ……?

 俺は独りで寝て、女性陣だけで同室になれば解決しないか……?

 まあ、少し狭いだろうけど……そこはベッドをくっつければなんとかなる気がする。

 それか、ホテルに言ってもう一部屋用意してもらうとか。


「あ、あのさ……」


 俺がそのことを提案しようとするも……。

 なにかを察したのか、ユリシィが俺の頬をつねって制止した。


「んぼぉ……!?」

「ジャスティスは黙っていてください。これは私たちの問題です……!」

「そうかなぁ……?」


 それから、女性陣だけで口論が始まった。

 俺はもはやなにも言うまいと思って、一人廊下に立ち尽くすのみだ。


「私……ジャスティス、いっしょじゃなきゃ嫌」

「ジャスティスと寝るのは、この私に決まっています! なぜなら、私が一番ジャスティスを理解しているからです!」

「わ、私に決まってるでしょ! この……! わからずや!」


 などと、喧嘩が始まりそうな勢いだった。

 その後も口論が続いていたので、俺はこっそり抜け出して。

 ホテルの受付嬢に空いている部屋がないか確認をとった。

 しかし……。


「あー今はちょうど空いている部屋はないですねぇ……」

「ま、マジか……」

「さっき、最初におっしゃっていただければ、あの時点ではあったんですけどねぇ……」

「マジかよ……」


 俺はあきらめて、みんなのもとへ戻る。

 すると、俺のいない間に解決していたようで、口論はすでに終わっていた。

 よかったよかった。

 みんな仲良くが一番だ。

 そう思って、俺は一人で部屋に入って、布団に寝転んだ。





「で……なんでこうなってんだ……!?」


 しばらくうたたねしていたら、気がついた時には俺の横に、三人が寝ていた。

 さっきいなかったから、こいつら三人で寝るのかと思っていたけど……!?

 いつのまにかベッドがふたつくっつけられているし……。

 まあ、ぎゅうぎゅうでギリギリだけど、なんとか4人で寝られないことも……ないけど……。

 それにしても、こいつら積極的すぎる……!

 今までなんで間違いが起こらなかったんだ……!?

 あ、アランがいたからか……?


「ねえ、ジャスティス……今日のジャスティス、なんだかいつもより魅力的だった……」

「ふぇ……!?」


 マチルダが、俺の横に寝転んで、耳もとでそう囁く。

 息を交えて、小声でそう言われると、興奮してしまうじゃないか……!


「私は分かっていましたよ。ジャスティスが本当は優しくて、素晴らしい人格の持ち主だって……」


 反対側の耳元で、ユリシィが囁く。

 そして――。


「むにゃむにゃ……ジャスティス……私を見つけてくれて……ありがと」


 ラフィアは既に寝ぼけながら、俺の上に覆いかぶさってきた。

 なんだこれ……主人公って、いつもこんなおいしい思いをしていたのか……!?

 どうやら今晩は、ろくに眠れそうにもない。

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