第1-7話 「ただいま」から「いってきます」まで

「たっだいまー!」

 戦い(って言うほどのものではなかったけど)を終えた私は、すぐさま家に帰ってきた。そういえば戦ってるときに耳と尻尾を出しちゃったりとかしてないかな?と思いつつ玄関の扉を開けた。すると、

「あっ、お姉ちゃん、お帰り。どこか怪我をしてたりとかしてない?大丈夫?」

 と、パジャマを着た紺也が迎えにやってきた。その右手には木で作られた彼の背の高さくらいいや若干それより短いくらいの杖が握られている。流石にあの人数差だし心配してくれたのだろうか。


「ありがと。でも無傷で切り抜けたし大丈夫だよ。私があんな人たちに怪我なんてさせられるわけ無いでしょ」

「よかったー。あっそうそう、もうみんなお風呂に入ったからね。お姉ちゃんも早く入ろう」

「そうするよ。怪我はしなかったけど結構疲れちゃったし、早くお風呂に入って寝よーっと」

 そう言って私は彼の横を通って自分の部屋に入る。


 私の部屋は女の子~って感じではなく、壁紙も普通の白だし、布団も一般的なものだし、本も少年向け漫画の雑誌や単行本が並んでいる。まぁちょっとは少女向けの漫画やラノベもあるけど。あと部屋の奥には小学生の時まで使っていた刀である【小刀「花蕾」】が飾られている。鞘が白色で柄が緑色の……まぁシンプルな刀だ。そういえば幼稚園の頃、この刀で人食い蛇を撃退したりとかしてたなぁ……懐かしい。

 とりあえずクローゼットとタンスからパジャマと下着を取り出してお風呂場に向けて歩く。


「ふぃ~気持ちいい~疲れが取れるわ~」

 私の家族と学くんが入っていたお風呂はお湯が柔らかくて気持ちいい。とりあえず今日は長めに入って早めに寝よう。

 さて……学くんへのいじめをやめさせるには……とりあえず1週間は私の家に泊まって学校は休むんだけど、それ以降は流石に学校に行かなきゃだしなぁ。それまでになんとかしなければいけないだろう。とはいえ私も彼も昨日まで接点がなかったくらいだ。クラスも端っこ同士だし、部活も別々だし、いつも一緒にいる訳にはいかないし。

 う~ん、何も思い浮かばない。どうしようかなぁ……


 そうこうしているうちにのぼせそうになり、急いでお風呂から出て体と髪と尻尾を洗う。そしてお風呂の部屋から出た後はパジャマを着て自分の部屋に戻り、髪の毛と尻尾をドライヤーで乾かし、よくブラッシングをする。


 そうしてしばらくスマホをいじっていると、コンコンと部屋の扉をノックする音がした。

「はーい、誰ですかー?」

 そう言うと、扉の向こうから返事をする声がした。

「僕ですー。寝るのは別々なんですけど、せっかくなので寝る前に夕華さんの部屋を見に行こうと思って」

 この声は学くんだ。彼は確か金治の部屋で寝るはずだけど……まぁ別にわたしの部屋で寝るわけではないし見られて困るようなものもないしいいか。

「はーい、今行きますよー」

 そう言って私は部屋の扉を開けた。


「なんか、見た感じ僕の部屋と大して変わらない感じだね。入るとき結構緊張したんだけど」

 学くんは私の部屋を見渡してこう言った。

「何よ。『緊張して損した』って言いたいの?」

「いやいやいや、居心地良くて良いなぁって思ったんだよ。ノートパソコンもステッカーとか貼ってなくてシンプルで、ポスターとか貼ってたりしてないし、あっ、これ模造刀じゃない?でも結構小さめだね、なんか小学生が持つようなサイズ。小学生の時に誕生日かなんかで買ってもらったりしたの?」

 そう言って彼が指さしたのは飾ってある【小刀「花蕾」】だ。

「小学生どころか幼稚園のときに買ってもらったの。んでサイズが合わなくなって使わなくなったからここに飾ってあるのよ。今はこっちの刀を使ってるんだ」

 と言って私は左手の中に【狐刀「菜の花」】を形作る。それを見た彼は見てわかるレベルで目を輝かせる。

「すげぇ、まるで【妖斬ゼータ】の主人公みたいだ……!」

 【妖斬ゼータ】……確かとある漫画アプリで連載されている漫画だったっけ。確か近未来の世界で凶暴化した妖怪を斬る現代の侍が主人公の漫画だったかなぁ。クラスメイトが好んで読んでいるらしくてたまにその漫画の話が聞こえてくるのだけど私は読んだことないな。いつか読んでみよっと。


 私たちはその後しばらくとりとめもない話をして、学くんは金治の部屋に戻った。私の部屋を出るときのあの顔、初めて会ったときとは大違いだなぁ。あんな明るい顔もできるんじゃん。

 私はそう思いつつ、寝床につくのであった。

 ・

 ・

 ・

「ん……もう朝か……寝過ごしては……いないみたいね。さーて、早く朝ごはん食べて学校行こーっと」

 私は朝起きてすぐスマホで時間を確認し、いつも起きる時間であることを確認するとゆっくりとベッドから起きる。そして風呂場横にある洗面台で寝癖を整えるとリビングに赴いた。


「あっ、おはようございます、夕華さん」

 真っ先に挨拶をしてきたのは学くんだ。こんなに早く挨拶をしてくるなんて、相当育ちは良いみたいね。

「おはよう、お姉ちゃん」

「おはよ、姉貴」

「おはようさん、夕華チャン」

 弟2人とお父さんも挨拶をしてくる。お父さんは今日は朝早いのか、珍しく既にスーツを着ていていつでも出勤できる格好だ。

「あ、夕華、起きたの。おはよう」

 お母さんも朝ごはんの目玉焼きを皿によそいながらこっちを見て挨拶をする。私の家は朝ごはんはいつもごはんと味噌汁だ。そして今日の主菜は目玉焼き……と。

「みんな、おはよう!」


「はい、今日の朝ごはん。全部冷めないうちに食べてね」

 お母さんが目玉焼きの皿をテーブルに置きながら言う。確かに温かいものばかりだから早めに食べた方がいいだろう。みんな素早く椅子に座って箸を持つ。

「「「「「「いただきます!」」」」」」


 学くんは目玉焼きをごはんの上に乗せた後、箸で黄身を崩す。

「あっ、ちょうどいい感じの半熟になってる。闇狐さん、醤油をいただけますか?」

「普通の醤油とめんつゆ、どっちがいい?」

「めんつゆかぁ……じゃあ、せっかくなのでそれで」

「はーい」

 そう言い、お母さんは冷蔵庫を開けてめんつゆが入った醤油瓶を取り出す。醤油用の醤油瓶とめんつゆ用醤油瓶は蓋の色で区別しているのだ。


「ごちそうさん。申し訳ないが今日は早く出なきゃならないんでな、早めに失礼するよ」

 素早くごはんをかき込んだお父さんは、食べ終わるやいなや椅子の後ろに立てかけてあるかばんを取って玄関の方に駆け出していく。

「いってらっしゃい」


「夕華さんのお父さん、結構忙しいんだね。まだ早いと思うんだけど」

「いや、2週間に1回は早めに会議があるから早く出るだけみたい。明日からはいつもの時間に出るはずだよ」

「へぇ~」


「「「「「ごちそうさまでした」」」」」

 偶然にもほとんど同時に食べ終わった私たちは一緒にごちそうさまをする。そしてお母さんがテーブルの上を片付け終わると、学くんは金治の部屋からかばんを持ってきて、その中にあるルーズリーフと教科書、ノートパソコンをその上に広げる。

 私たちが通っている坂田高校には、学校を休んでいてもネットで授業が受けられ出席日数にもカウントされる「学校外出席制度」がある。(流石にテストは受けられないけど)私は使ったことはないが……


 その後私たちは学校に行く準備をして、リビングに集まった。

「んじゃ、うちのカーチャンの話をよく聞いて過ごすんだぞ?」

「家事とかは手伝ってくれなくてもいいけど……それじゃ、授業が終わったらお買い物の手伝いでもさせようかしら。その代わり、何かが来たらちゃんと守るわよ」

 金治が言ったことにお母さんが反応する。確かに私たちが学校にいる間この家にはお母さんと学くんしかいない。まぁお母さんはそんじょそこらの相手に負けるひとじゃないし任せておけば大丈夫だろう。


「それじゃ、いってきまーす!」

「行ってきます」

「行ってきます!」

 後をお母さんに任せ、私たちはそれぞれ学校に行くのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る