第1-8話 神
とまぁそんなこんなで午前中の授業は過ぎ、昼休みの時間になった。
「さーてと、今日のお昼ごはんは……」
そう言ってお弁当箱を開けようとすると、
「たーいやさん、きょーうもいっしょにご飯食ーべよ!」
と、隣の席にいる女子、
私のお弁当は、1段目にのりごはん、2段目に自然解凍の冷凍おかずや手作りのきんぴらごぼうなどが入っている、まぁいつものお弁当だ。とはいえ周りの女子より大きめだけど。いつもは玉子焼きもあるんだけど、今日は朝に卵を食べたからね。
「待夜さんのお弁当、昨日も思ったけど結構大きく見えるね」
そういう宮城さんは購買で買ったらしきホットドッグを食べている。それを取り出した袋の中にあるのは、サラダチキンとパックの野菜ジュースだ。なかなかに健康的な食事である。
「そ、そう?」
「そうよ。結構食いしん坊なのね。あっ、もしかしてそれが体力テストで好成績を出すための秘訣?」
「そ、そうかもね。でも食べるだけじゃなくてちゃんとトレーニングもしてるからかも」
「そうなのーっ?じゃ私も部活で人一倍頑張ってみようかなーっ!」
やれやれ、体力テストでかなりの好成績を出したのは結構広まってしまっているようだ。これでも【Silver Bullet】では標準的なレベルなのだが。……これって結構ラノベとかによく出てくるやれやれ系っぽくなかった?後でメモっとこ。
【Silver Bullet】とは、普通の人には対処しきれない数々の事件を解決する組織であり、私の家族も全員加入している。一応そこに加入しているうちの多くの人はフロント企業に入社しているが、私も姉弟もお母さんももちろんそこの社員じゃないし、お父さんも別の企業に入っている。そういえば最近そこの東京支部に行ってない気がするなぁ。でも行く予定があるわけじゃないし……
「そういえば、待夜さん今日結構表情暗かったねー。どうしたの?」
あっ、もしかしていじめのことを考えてたのが表情に出てた?奏さんにはあまり公にするなと釘を刺されてるし、どうしよう……まぁそのことを伏せて相談する分には良いよね。
「実は結構困ったことになっちゃって……詳しくは言えないんだけど……」
そう言うと結構意外な言葉が返ってきた。
「じゃ、桜の神様に相談すればいいよ!彼、だか彼女だか分からないけど、その人、口固いみたいだし」
「えっ!?」
まぁ確かに桜の神様の怪談(……と言って良いのかこれ)はこの学校ではたまに聞くけど、まさかこの子の口から飛び出してくるとは。この子、こういう話好きだったりする?
「私、以前お話聞こうとお賽銭入れてみたらなんか男性なのか女性なのかわからない声が聞こえてきたのよー。私、その相手と30分も話ししちゃったー」
「そ、そうなんだ。じゃあ、放課後にでも聞いてみるよ」
この人、結構変な人だなぁ。そういや学校内にもおおごとにならず話を聞ける
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放課後、私は校舎裏にある桜の大木の前に来ていた。このあたりに人払いを掛けて、木の前にある小さくてボロボロな社を見る。この社は本当にボロボロであり、長い間整備されてなかったことがうかがえる。
私はかばんの中からお財布を取り出し、その中から5円玉を出して賽銭箱に投げ入れる。
「桜の神様、桜の神様、どうぞおいでください」
私はこう言い、きちんと二礼二拍手一礼をする。すると、社にある扉の奥から可愛らしい声が聞こえてくる。
「何じゃ?と思ったらその声は。夕華よ、今行くからのぅ」
社の扉を開けて出てきたのは、私の手と同じくらいのサイズしかない人型の存在だ。髪が長く、ワンポイントが赤い巫女のような服を着ている。
彼女が昼休みに話に出ていた桜の神様であり、私がこの学校に入学したその日に知り合った人である。言うてこの社にはあまり人が訪れないしあまり知名度がない(怪談もオカルト好きや変人や私以外にはほぼ与太話扱いされている。)ためか力の大部分を失ってこんなちっちゃくなっちゃったし、姿も私以外には見えないし声も霊感が強い人にしか聞こえない。全盛期はこの学校のアドバイザーを一手に請け負っていたみたいだけど、本当だろうか。とまぁそのため、人払いを掛けないと、私が虚空に向けて話しかけている変な人に見えるため彼女と話をする時は毎回人払いをかけるのだ。そんなことで噂されるのも嫌だし。
「で、今回はなんの用じゃ?なにやら珍しく神妙な雰囲気を纏っているようじゃがのぅ」
「それがですね、」
私は、学くんに対するいじめのこと、彼は今私の家にいることなどを話した。
「ふむ、この学校でいじめが……いじめのことは昔から何回も聞いたことがあるが……かつてはこの剛腕で『いじめなぞ気分が悪くなることはやめよ』と思い知らせてやったものじゃがのぅ、今はこの有様じゃ」
「その細腕で剛腕って……いでっ」
桜の神様は地面を蹴って高くジャンプし、私の額を蹴ってきた。
「次はこれでは済まさぬぞ」
「はーい」
「さて、いじめを止めるために我からアドバイスできることじゃがのぉ……」
桜の神様は上を見上げてもったいぶる。
「アドバイスできることといいますと……?」
「何もない」
「……はぁ?」
言われるとは思っていなかった言葉につい呆けた表情になってしまう。きっと漫画だったら目が点にでもなっているだろう。
「我は昔は剛腕で思い知らせてやったと言ったが、まぁそれは言葉のあやで、実際はこの力で怖がらせてやっていたのじゃ。というか、この方法しか知らぬ」
そう言うと彼女は名状しがたい存在に変身した。小さいからあまり怖くはないが、もしこれが私より大きい姿で目の前に出てきたら正気ではいられないだろう。ところで、この神様はどうやってこういうのを知ったんだろう?
「まぁこの力は残ったのじゃが、信仰を失ったせいで力を失い、このように小さくなってしまって人に見えなくなってしまったのじゃ。我の姿が見えるそなたがこの学校にやってきて、救われた気分なのじゃ」
「それはどうも」
「ということで、そなたが化け術を使えていれば『化け術で恐ろしい存在に化けて怖がらせろ』と言ったし、我が人から見えれば実際に赴いたのじゃが、どちらの方法も使えないのならのぅ」
「そもそも化け術って相当高難易度の術だよ?おいそれと使えるものじゃないのよ」
「ふむ……」
手詰まりかぁ……と思っていると、なにかの文書が思い出される。確かあれは春休みのときに暇つぶしで見た「式神を自分で操作する新しく簡単な方法」だっけ?よく覚えていないからタイトルすらうろ覚えだけど。もしかしたらこれを使えば……?
「そういえば桜の神様って式神ってどれくらい使えるの?」
「我を誰だと思っておる。そなたはもう聞いておろうが、我はかつては村一つを治めた神だったのじゃぞ?そなたが想像できることは何でもできるであろう。ただ、今は力が足りぬゆえ、大きな力が必要なことは出来ぬであろう」
桜の神様はそう、「えっへん」とでも言いたそうなポーズで言う。これは良いことを思いついてしまったかもしれない!
私は早速、明日もここに来る約束を桜の神様に取り付け、急いで家に帰るのであった。
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