第1-5話 襲来
「こんな夜中に誰かしら?誰も通販とか使ってないよね?」
そう言いながらお母さんはタオルで手を拭き、台所の隣りにあるインターホンに向かった。
「通販を使っているにしてもこんな時間に来ることあるか?」
「そんなことはないと思うけど……別に、何だったっけあれ、不在通知票は来てなかったよね」
そんなことを話し合っているとお母さんが怪訝な顔をしながらこっちを向いてきた。
「夕華の友達って名乗る人が大勢連れてやってきてるけど、あんなガラの悪そうな人が友達って訳じゃないよね?」
「えっ、なんだって?」
私は驚きながらお母さんに代わってインターホンを見た。……見たことがあるような顔が10人くらいの人たちを連れてきている。とはいえその中に大人はいないみたいだ。なんか見たことがある顔だと思ってスマホを見てみると、奏さんからもらった辰哉の写真と同じ顔だった。学くんの家じゃなくてこっちに来るなんて、もしかしてつけられてた?
「こいつらだよ、学くんをいじめてたの」
「なんで来たか分からないけど、多分夕華と大森さんが一緒にいるところをつけられてたんでしょうね。さっさとご退散願いたいところだわ。とりあえず大森さんは紺也と金治で守ってて、夕華が出て」
お母さんが厳しい目で私を見る。
「えっ、なんで私が」
「こんな素人につけられるなんて、男子と一緒に帰るのにうつつを抜かしてたんじゃないの?別に男子と一緒に帰るのに夢中になるのは良いけど、状況が状況だし周囲をきちんとチェックしなきゃね」
「うっ、そう言われると否定しきれない……」
確かにいつもの私ならつけられるのに気づいていただろうけど……ということで仕方なく私が出ることになった。
「あっそうそう、耳と尻尾を隠すのを忘れないようにね」
「分かってるよ」
私はお母さんにそう言って自分の髪飾りに手をかざすと、耳と尻尾が見えなくなり頭の横に人の耳が徐々に形成される。
「はーい」
私は正面玄関のドアを開けてそこから顔を出す。そうすると目の前にはいけ好かない顔が十数個も出てくる。ちなみにお母さんと弟は狐耳と尻尾を出しっぱなしだが、正面玄関からは中に入って覗き込まないとリビングが見えないので問題ない。
「ここに大森くんが来ているはずなのですが、顔だけでも出させてくれませんか?」
いけ好かない顔の先頭にいる辰哉が真っ先に口を開いてきた。結構丁寧な口調になっているが、よく聞くとすごく嫌な声質をしていていて、本性がはっきりわかる。そうでなくてもちろん学くんを玄関前に出す訳にはいかない。彼もこいつには会いたくないだろうし。
「それは出来ない相談だね。しかももう9時過ぎてるじゃない。もうそろそろ家に帰ったほうがいいと思うよ」
自分でも口調が悪く、辛辣になっているのを感じる。っていうか、学くんはこんな人数によってたかっていじめを受けていたんだ……と思うと気分が悪くなる。
「いやぁ、未払いの部費の集金に来まして、でも彼の家には誰も居ないようでしてね。そうしたらこちらの家にいらっしゃると聞いて来た次第です」
私たちをつけてきたっていうのに、嘘をつく能力に関しては一級品ってところね。なんか胡散臭すぎてムカついてきたのでここで一発かましてやろう。
「そんなこと言って、あんたたちが学くんのことをいじめてるの知ってるんだけど?ここに来たのもどうせお金をせびりに来たんでしょ」
そう言うと、辰哉は「チッ」とでも言いたげな顔をした。そして顔を下に向けると……右手で私の顔面に向けてパンチを繰り出してきた。
「だったらお前をボコって無理矢理連れ出すまでだ!」
普通の人にしては速いパンチだが、小さい頃から数々の修羅場をくぐり抜けてきた(ちょっと大げさか)私にとっては簡単に見切れるパンチだ。私は頭を左に振ってひょいと避ける。
「なにっ!?俺の全力パンチが避けられた!?」
「もし喧嘩するなら相手するけど?言っておくけど、私は結構強いよ」
相手側のの後ろの方を見るとそこにいる人達もファイティングポーズをとっている。ただ、喧嘩をして私の家の前を荒らされたくないし、ってかそんなことしたらお母さんがすっ飛んできて……どうなるかは考えたくもない。
「オイオイ、喧嘩するなら他所でやってくれ。そもそもこんなとこでやりあっても狭いだろ。確かこの住宅街には結構広い公園があるからそこでやってくれよな」
そんな事を考えていると、後ろからお父さんが話しかけてきた。お父さんは結構
「(この夕華とかいうやつにいじめを知られたんだったら、先公にチクられないように上下関係を分からせたほうがいいな、よし)」
辰哉は独り言を言っているようだが、私の耳にはきっちりと入っている。まぁ依頼もあるし先生に言うつもりはないのだが。もし逆にこいつらをボコり返してこっちが上だと思わせてやって、私が学くんを守っていることを示せば、いじめをやめてくれるかもしれない。あくまでかなりの希望的観測だけど。
「よし、じゃその公園でボコり合おうぜ。どっちが上だか分からせてやろうじゃねぇの」
結局公園に行くことで了承してくれたようだ。そうしてくれればこっちも家の前を荒らされなくて良い。
「それはこっちのセリフよ。私だったらここにいるみんなが一斉にかかってきても勝てると思うけど」
「なにをー!とにかく一緒に来いよ」
辰哉たちが私の家を立ち去っていくのの最後尾に私はつく。ふと後ろを見ると、玄関前でお父さんが「お前なら大丈夫だ」と言わんばかりにウィンクをしている。まぁ、こんな奴らに負ける気はしない。いっちょかましてやろう。
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