第1-4話 「私の家族を紹介します」

 私たちは学校から出た後、学くんの家に寄って彼の荷物を取りに行き、そして私の家に行った。彼はキャリーバッグに着替えや歯ブラシなどを詰め、いつも学校に持っていっている鞄に教科書やノートを詰め込んでいるようだ。


「で、ここが私の家。結構見た目きれいでしょ」

「なんか、思ったより大きいね。確か3人姉弟なんだっけ?弟2人の」

「うん、そうなんだよ。もうみんな帰ってるはずだしすぐに会えると思うよ」


 私は家の玄関の前に近づき、呼び鈴を鳴らす。

 ピンポーンという小気味よい音が家の中に響き、少し経って玄関のドアが開いた。

「ただいま~」

「おかえり。で、その子がさっき言ってた人なのね。ふむふむ」

 真っ先にハスキーな声で出迎えてくれたのは私のお母さん、待夜たいや闇狐やみこだ。彼女は私のお母さんにして私の剣術の先生である。よく見ないと分からないが彼女の髪は黒ではなく若干紺色が入っていて、この髪の色は(私の菜の花色や弟たちの髪色もそうだが)各々の妖力の色を表しているそうだ。私はよくわからないけど。そういえば、昨日はあんな量のお酒を飲んで今朝は完全に二日酔いだったのに、もうピンピンしている。私も大人になったらあんなに飲んじゃうんだろうか。

 ちなみに、家には連絡するついでに「正体は隠さなくていい」と伝えておいたため、お母さんは普通に耳と尻尾を出している。私は外から帰ってきたばっかりなので隠しているが。


「あっ、どうも、僕が大森学です。なんか、夕華さんに似ていてそれでいて不思議な雰囲気がありますね」

 お母さんは目の隈とか光を反射しにくい黒目(ちょっと赤い)のせいでよく怖いって言われるけど、不思議だと評したのは珍しい。

「それはどうも。それはそうと、玄関前で話していないで早く家に入ってくれると助かるんだけど」

「あっはい、それでは失礼します」

 そうして私たちは家に入った。


「おっ、こいつが彼氏かい?ついに姉貴も彼氏持ちかぁ~隅に置けないねぇ」

「金治くん、今日会ったばっかりなのに彼氏っていうのは流石にまだ早いと思うよ」

 学くんは荷物をとりあえずリビングの端っこに降ろし、私たちは晩ごはんを食べることにした。それで、私の左右両側に座っているのが弟の紺也こんや金治きんじである。紺也が長男であり私の2つ下、金治が次男で私の4つ下だ。見た目的には、紺也がお母さん似で暗い紺の毛色をしていてスクエアのメガネを掛けており、金治がお父さん似で金髪(私より鮮やかな黄色だ)である。紺也は内気だがキレるととても怖く、金治は見た目はチャラいが私と同様情には厚い男だ。


 そして……

「なんか、ここすごいもふもふ感ありすぎじゃない?ちょっと肩身狭い感じがするんだけど」

「そうか?俺はもう慣れたけどなぁ」

「それは、この人達と一緒にいつも生活してるからじゃないの?(それにしてもこの人、ちょっと怖いなー)」

 私の弟たちも狐娘と人間のハーフなので狐耳と尻尾が生えている。なんだったらこの空間は耳尻尾が生えてない人のほうが少ない。ちなみに学くんの言葉に反応したのは私たちのお父さんで、我が家の中で唯一の純粋な人間である史也ふみやだ。見た目は金髪でチンピラみたいだが、家では良いお父さんだし、会社でも部下にとても慕われているらしい。人は見た目によらないものだ。


 さて、今日の晩ごはんは肉ゴロゴロカレーとサラダだ。元々いつも私と金治がおかわりするからって多めに作ってあるためか、急に連絡しても学くんの分があったみたいだ。その分私たちがおかわりする分が減っちゃうんだけどね。

「ん、これ美味しいです闇狐さん!」

「あら、そう言ってくれたらとても嬉しいわ」

「何か隠し味でもしてあるんですか?」

「知人が作っている特製の鰹節で出汁を取ってるのよ。まぁ、特製とはいっても貰い物だけど」

 席が角を挟んで隣同士になっているお母さんと学くんが話している。お母さんの料理が家族以外に褒められるのはそうないからか、表情が固めなお母さんの顔も少しほころんでいる。もちろんお母さんが褒められて私も嬉しい。


「そういえば、この子を助けるために自分の正体をバラしたんだって?」

 カレーを食べ終わって口直しにサラダを食べていると、突然お母さんがいつもの胸の内がわからないような口調で話しかけてきた。もしかして怒ってる?

「う、うん。学くんが危ないと思ったんだけど、制限かかってたら助けるのに間に合わないと思って、つい」

「ま、お姉ちゃんはとっさのことになったら考えるより先に体が出ちゃうタイプだからね。そこがいいんだけど」

 怒られると思っていたら横から紺也がフォローしてくれた。でもそれあんまりフォローになってないよ……


「まぁ、私自身も正体明かしてお父さんを助けたおかげで出会えたようなものだし、こういうのも場合によっては悪くないのかもね。一応に関しては『意味なく、積極的に広めたりはしない』っていうスタンスだし、意味があって無駄に広めたりしないなら良いんじゃない?」

 あっ、なんか怒られずに済んだ。そういえばお母さんとお父さんの馴れ初めについては聞いたことはないなぁ。いつか聞いてみようか。


「ところで大森さん、私たちの正体を勝手に広めたりしないでよ。」

 それはそうとお母さんは学くんに釘を刺そうとする。

「もしかして正体を隠して人間の中で隠れ住んでるっていう……」

「そういうのじゃないけど、とにかくクラスメイトとかに『夕華は実は狐娘のハーフだぞー』だなんて言ったらどうなるか、分かるわよね?」

 お母さんが学くんを脅そうと普通の人間にも妖力が濃紺色のオーラとして見えるレベルにまで高める。その影響か髪の端っこが青く光り、若干上に向けて持ち上がる。その効果あってか、

「あ、うん、もちろん」

 学くんはかなり怯えた様子で承諾した。まぁ私もクラスメイトから「耳触らせてー!」とか「尻尾もふらせてー!」とか言われたら困るし。


 そんなこんなでみんなはご飯を食べ終わって、私たちはリビングで思い思いに過ごすことになった。……が、

「で、なんで僕の体の上に尻尾が3本も乗ってるの?」

 なぜか学くんが尻尾のもふもふの比べっこをする流れになってしまった。その発端は金治が「いやーなんか昔からこういうのやってみたかったんだ」と言ったことに始まっている。まぁその直後お母さんに「みだりに正体明かしたりしないでって言ったよね?」と釘を刺されたのだが。そのお母さんは今キッチンで皿洗いをしている。

 ちなみに私たちは4人でソファーに座っているだけで、別に学くんにお尻を向けたりはしていない。そして姉弟の中で一番尻尾が長い私が一番離れている。そうじゃないと届かないからね。


「それじゃ金治から、……なんか毛先がカールしていて、結構癖っ毛だね。結構いい感じの手触り。それと、その髪飾り夕華さんとお揃いだね」

 そう言って学くんは私のものと似ている金治の髪飾りを指さした。

「俺は生まれつき癖っ毛なんだ。あと、この髪飾りは姉貴が『似合うんじゃないか』って選んでくれたものなんだ。ほら、似合うだろ?」


「次は紺也で、……結構ストレートでツルツルしていて、あんまりもふもふはしていないけど、結構高貴な感じがする。」

「ありがとう。知り合いからも結構キューティクルが美しいって言われてるよ。」

「それと、そのヘアピンは何?」

「あ、それは……」

「それは俺が選んだんだ」

 二人の会話にお父さんが割って入る。

「前は2人のような髪飾りが良いと思ってたんだがな、いざ付けてみると紺也の雰囲気に合ってなくてな。それで慎まやかなヘアピンにしたってことだ。その分マジックアイテム屋に頼む金もかかっちまったが、な」

「それってどういうこと?」

「闇狐と子どもたち3人の髪飾りやヘアピンには、見た目を人のように見せたり妖力を隠蔽したりする妖力回路が入っててな、それは小さいものには刻むのが難しいんだ。だからヘアピンみたいな小さいものに刻むにはプロに頼むしかないんだ」

「へ、へー……」

 お父さんの話に学くんは分かったような分かってないような顔をする。そりゃ普通の人にそんなものを説明するのは難しいって。


 最後は私の番、ということで私が学くんの隣についた。

「さっきまで散々もふらされたけど、夕華さんのは丁度いいもふもふ感って感じだね。こうしてみると三者三様でおもしろいな」

「ありがとな」

「そりゃどうも」

「どう?落ち着いた?」

 そういえば学くんの表情があの時から柔らかくなってきたような気がする。

「うん。ありがとう。今日はよく眠れそうな気がするよ」

「それは良かった!でも寝床を確保してなかったような……」

 そう言って周囲を見ると、みんな目を伏せてしまった。まさか考えてなかったのか……


「じゃ、俺の部屋で寝ればいいぜ。詰めればベッドに2人入るし」

 はじめに口を開いたのは金治だった。

「えっ、いいんですか?」

「もちろんだぜ。せっかくだから俺の部屋も見てってくれ」


 そんなこんなで学くんの寝床を決めて各自でお風呂に入ろうとしたとき、玄関の呼び鈴が鳴った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る