EPISODE1 "いじめを破壊する銀の弾丸"
第1-1話 CONTRACT
私は奏さんの隣に座り、体を彼の方に向けた。彼の掛けているメガネは赤いフチがとても目立ち、とても「坂田高校の情報屋」などと呼ばれているようには見えない。見た目だけ見ればいいところ売れないお笑い芸人って感じだ。
彼は新聞部の部長で、ここには色んな本を読みに来ているようだ。昨日も来ていたので校内新聞の記事はどうしたのか聞くと、「まだ新聞の出版までには早いからな。ここには色んな情報が集まると聞くし、本を読みながら情報を集めているんだ」って言ってた。
とにかく、そんな彼が何の用で私を呼んだのか聞いてみよう。
「で、何の用で呼んだの?まぁ、私はそろそろ帰るところだから良いけど」
「それがな、ここでは言いづらい用なんだ。そうだな……じゃ、隣の物理準備室で話そうか。そこなら外に声が漏れないみたいだから」
そう言い、奏さんはこの部屋の前にある黒板の隣りにあるドアを指さした。その上には「物理準備室」と書いてある看板がかかっている。確か文芸部の顧問兼物理の先生である
「そうだね。確か先生もいないみたいだし、そこで話そうか」
そうして私たちは物理準備室に向かった。
物理準備室には、1年生のときの実験で使った斜面とボールとか、滑車とかが置いてある。そして部屋の奥には机と椅子があり、机には様々な資料が乗っかっている。まぁ私が見ない方がいいものだと思うので気にしないことにして。
「椅子には君が座って良いよ」
と言われたけどこういう話って目線を合わせたほうが良いよね、と思ったので、
「じゃ、この椅子は私が座ることにして、奏さんは向こうから椅子を取ってきて良いよ」
と言うと奏さんは
「そうか、ならお言葉に甘えて」
と言って隣の物理実験室から椅子を持ってきて私の隣に座り、後ろ手で扉を閉めた。
「さて、僕が何を話したいかといえばね……」
奏さんはなにやら神妙な顔つきで話し始める。本題に入るのを少し渋っているようで、言いたくなさそうだ。
「何を話したいの?言いたいなら言ってみてよ」
とにかく私に伝えたい大事なことがあるようなので、一回急かしてみる。この人がわざわざ私に伝えてくるのなら大事なことの気がするから。
「実はな、2年1組に深刻ないじめがあるようなんだ。いや、それも実態を正しく表していないのかもしれないな……」
その発言に私はとても驚いてしまった。今日は新学期の授業が始まったばっかりなのに早速いじめだなんて。
「あっ、とても驚いているようだな。まったく待夜さんは分かりやすい」
「分かりやすくて悪うござんした」
「ともかくいじめのターゲットはこの人、
そう言って奏さんはスマホに保存してある画像を見せてきた。その画像には前髪で目が隠れている男子が正面から写っている。どうやって撮ったのだろうか、これも新聞部部長の実力というんだろうか。
「この男子は中学からサッカーを始めたサッカー部員なんだが、同時期に1年からレギュラーに抜擢されるほど上手い人が入ってきたのがマズかったようなんだ」
「とすると?」
「その人がサッカー部1年の中でリーダー的な存在になり始めてな。ついには、1年の中で一番サッカーが上手くなかった学くんをいじめ始めたということなんだ。シュートの的にしたり、トイレの個室にいれば水をぶっかけたり、家にまで押しかけて授業料だの練習料だのと称して金を取ったりもしていたみたいなんだ。まぁ酷い話だろう」
「まぁってレベルじゃなくてとことん酷い話ね。もし目の前にいたら殴ってやりたいわ。ところで、それが2年1組のいじめにどう繋がるってわけ?部活とクラスとはあんまり関係ない気がするんだけど」
「それがな、サッカー部のいじめに関係している中核メンバーがよりによって2年1組に集まってしまったようなんだ。一応この学校は、クラス分けがプログラムを使って完全にランダムに行われていることは、以前の取材で確定している。そのため教師がわざとサッカー部部員を集めたということはないだろう。まぁということで、これまでは教室の中にいれば安全だったのが一転最悪の危険地帯に変貌してしまったということだ。あっそうだ、このいじめの首謀者の写真を見せてなかったな。こいつだ。名前は
今度は別の画像を見せてきた。今度の男子は人相が悪く、髪を金髪にしていないだけの悪ガキといった印象だ。人相で人を決めつけるのは良くないって両親からは言われてるけど。あー思い出した。こいつは定期試験で毎回上位5人に入っている人だ。
「そんなに大規模ないじめだと、誰かもう助けようとする人がいるはずだけど……」
「実は彼を気にかける女子はもう居るんだ。水をかけられたら拭いてあげたり、怪我をしたら治療してあげたりしてあげてる女の子が」
そんな子がいるんだったらわざわざ私に頼まなくてもその子と協力してなんとかすればいいと思うんだけど……と思ったけどよく見ると口に手を当てて含みのある言い方をしていた。
「だったらその子に言えばいいと思うんだけど、そうしないってことはなにか裏があるってわけ?」
「まぁ早まるな、話は最後まで聞いてくれ。実はその子は辰哉とグルなんだ」
「辰哉とグルって……どういうこと?」
「実は、彼女はいじめの証拠の隠蔽などに関わっており、いじめを長く続けるために動いている、というデータが集まっているんだ」
「そんな……だったら学くんは実は孤立無援ってことじゃない!」
その後しばらく静寂が続いた。あまりの酷さに言っている側も疲れたのか奏さんも目をつぶって扉に身を預けている。
「ところで、なんでここで私に話したの?もしいじめをやめさせたいのならば新聞に書いて広めたら良いじゃない」
「僕もそうも考えたんだ。だが、辰哉の成績を鑑みて彼の人生を奪ってしまうのは惜しいと言う結論に至った」
その発言を聞いて私は即座に身を乗り出して言った。
「えっ、じゃ、アンタも加害者にも未来があるとかムグ」
私が言葉を言い終わらないうちに奏さんが私の口をふさぎ、私の頭を抑えて椅子に座らせた。
「言い終わる前に判断を早まるな、まだ全部言い切っていないだろう。まぁそう言う結論には至ったが、それはそれとしてこのまま社会に出ても結局またいじめをしてしまうだけになるだろう。当然それは良くないだろう?」
「まぁそうね」
「そこで僕が君に頼みたい依頼の詳細は以下の通りだ。1つ目は学へのいじめをやめさせること、2つ目は辰哉に相応の罰を与え、二度といじめをしないようにすること、3つ目はこのことを
「それをなんで私に?」
「君に言ったら受けてくれると思ったからな。君は学校内でかなり義理人情に流されやすいって評判だぞ?」
そう言って奏さんは腕を組んで私の方をじっくり見た。義理人情って、たしかに私は感情に流されやすいとは思うけど、そこまで噂になっていたなんて。
そんなの簡単にできることじゃないけど、そんな難しい依頼を頼むとしたらそれ相応の報酬がほしいわね。とりあえず報酬について聞いてみよう。
「そこまで言われたならもちろん受けるわよ。ところで、こんなに難しい依頼、報酬について聞きたいわね。学食1年フリーパスでもくれるのかなぁ?」
「そこまではあげられないけど、その仕事に見合った報酬を用意しよう。あと、これ君なんだろう?」
そう言われて三度差し出されたスマホには、たしかに私の姿が写っていた。だけど、この写真はいつ取られたものなんだろうか。角度からしてどう見ても隠し撮りされたものだ。しかもこの姿……もし新聞に載せられたらえらいことだ。
「この写真、依頼をしっかり終わらせてくれれば新聞にしてばら撒かずに僕の懐の中にだけ置いておこう」
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