第5話 ヒーローになれるか?

「あー…そうですよね!1人1人にユニークマジックがあるのが当たり前ですよね!」

このとき、なんとか笑顔を作った自分を褒めてあげたい。

「じゃあ僕はこれで…またお願いします」

「はい。またのご来庁をお待ちしております」


「あれ?チヒロさん?」

「あ…セバスチャンさん…用事、終わったんですね…」

鮮やかな彼の茶髪が今の俺には眩しい…


「何かあったんですか?なんだか落ち込んでるように見えるんですけど…」

「いえ…ただ、世の中ってそんなに甘くないなーって、思わされただけです…僕達またどっかで会えますかね?」

「会えると思いますよ。僕、武器屋の店主なんで」

「そうなんですか?」

こんなに爽やかな笑顔を向ける青年が、ファイナルファンタジーに出てくるような大剣を作ったりするのだろうか?まったく想像がつかないが…


「ええ。武器が欲しいときはもちろんですけど、悩みがあるときでも大歓迎ですよ!僕の店の住所は…」


ああ…セバスチャン…あなたはなんて…どこまでそんな…

ああ…セバスチャン…


自分でもしつこいと思うほど何度もお礼をした俺は、落ち込んだ心が少しだけ軽くなったのを感じながら役場を後にした。




さてさて、役場を出たはいいものの、そもそも今の俺に家はあるのだろうか?ホームレス中学生ならぬホームレス高校生じゃねぇか。

中学生と高校生なら中学生のほうが凄いと思…


(ん?なんだなんだ?)

街をうろついていたところ、路地裏の奥の方から怒声が聞こえてきた。路地裏を抜けた先に小さな広場があるようで、姿は見えないが建物の壁に人影が映っている。


(よく分かんねぇけど行ってみるか!)

せっかく異世界に来たのだ。治安の良い日本には飽き飽きしていたところさ!

俺は足音をできるだけ消して、声のする方へ忍び寄った。


「いいから寄越よこせつってんだよ!ガキが生意気に言い返してきてんじゃねぇ!」

「早くくれよぉ。素直に金を渡しゃあ命だけは取らねぇからよぉ?」


やだやだ…あきらかにヒャッハーなお兄さん2人組が、10歳くらいの男の子をカツアゲしてらぁ…

…確かにあの子、結構育ちが良さそうだな?あの2人のヤカラと比べたら、だいぶ良い服を身につけているし…金持ちは辛いなぁ。

仕方ない。この俺が「幻覚」で解決してさしあげよう…


そう思っていたその瞬間、2人組のうちの1人が男の子に手を上げた。


(おい!やめろ!)

このとき、俺には圧倒的に勇気が足りなかった。とっさの出来事に声も足も出ない。情けなくて仕方がない。


だけど、そんな悔しさもかすんでしまうほどの興味深い光景がそこにはあった。


顔を抑えていたのである。

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転生したけどこれといった才能がなかった件 サムライ・ビジョン @Samurai_Vision

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