第4話 俺だけの魔法

「他」と書かれた項目の横には小さく「幻覚」と書かれていた。

幻覚…?幻覚ってなんだ?聞いてくるか…


「すみません」

「はい、どうかされましたか?」

ソファに座って難しい顔をしても「幻覚」の正体は分からない。俺はさっきのお姉さんのいたフロントに戻って尋ねた。


「この『幻覚』っていうのはなんですか?」

「先ほど作られたカードで他属性たぞくせいの詳細をお調べできますので、いたしましょうか?」

「お願いします」


属性を調べるのにはそれほど時間がかからないらしく、フロントの上に備えられたレジのような装置にカードを入れたかと思うと、お姉さんは画面に映った文字を読み上げた。


「『幻覚』の説明をしますね。この魔法は端的に言いますと、特定の相手に幻覚を見せられるというものになります」

「幻覚ですか…ちなみにその幻覚っていうのは人間以外にも効くんですか?」

「はい、人間以外にも効きます。チヒロさんの場合かなり数値が高いので、訓練次第では種族も性別も問わず『幻覚』の効果が見込めるかもしれません」


種族も性別も問わず…か。それは結構すごいんじゃない?


「訓練といいますと、僕の場合どんな訓練をすればいいですかね?」

「『幻覚』は使用者、つまりはチヒロ様の想像力が大きく問われます。相手にどんな幻覚を見せたいのか、その状況をできるだけ繊細に脳内で再現する必要があるようです」

想像力か…青春と呼べる短い高校時代をすべて異世界に費やすと決めたこの俺の得意分野じゃないか!


「そして、どれだけコトダマが強く作用するのか、それもまた鍵となります。ですので、言い方は悪くなりますが、誰かを騙す際などにどれだけ説得力のある言葉を並べられるのかが重要ですね」

騙す…そうだよな。わざわざ相手に幻覚を見せるような状況だなんて、騙すことくらいにしか使えないよな…


ダメだ。なんだか気分が沈んできた。


「ちなみにこの『幻覚』が、チヒロ様の『ユニークマジック』となります」

「ん?ユニークマジックってなんですか?」

「ユニークマジックというのは、冒険者登録をしている人の中でその人だけが持つ独自の魔法のことです」

「え!?僕だけの魔法ですか!?」

「…はい、その通りでございますが?」


なんと!俺の魔法!俺だけの魔法か!

つい声が大きくなってしまった。響き渡った声に周りの人がみんなこちらを見てくる。


「珍しいですよね!一般的な冒険者は『電撃』や『竜牙りゅうが』といった直接攻撃のユニークマジックを持つのですが…チヒロ様の場合は『幻覚』!なんというか、平和的に依頼をこなせそうです!」

「…もしかして、冒険者ってみんなユニークマジックを持ってるんですか?」

「え?あ、はい。左様でございます」


撃沈だ。俺だけ幻覚。なんだよ幻覚って。

毒キノコかよ。

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