第5話 ジュリアーノ



 マレーロの家から帰った次の朝、マルセリーノは家の隣にある兎牧場を眺めながら、

「ワイ、何してんねやろ。連れの家行って遊んでばっかり。研究続ける訳でもないし、他の星へ出張もないし、まじ、何してんねやろ」


 確かにマルセリーノは、母星に帰ってからは新しい宇宙理論を研究する訳でも無く、既に数年の月日が流れようとしている。地球で言えば10年以上にもなるだろうか。


「今日は研究所に行ってみよかな」


 マルセリーノは研究所には通っているが、新しい発想が出て来ない。発想の無い研究など進化に近付くことができる訳は無い。


 研究所に着くと統括教授室に入り、コーヒーを淹れる。過去の文献を書棚から引き出し、重いファイルを持って木製の事務デスクの椅子に座る。1ページづつ丁寧にめくりながら、過去の業績を振り返り、マルセリーノは額に翼を当てて一人呟く。

「どれもこれも大したもんやないな。ワイは、一体これまで、何して来てんやろ」


 マルセリーノは、過去を振り返りながら、自分自身の業績を眺め続けている。


 その時、

「あっ、しもた。あん時、めっちゃ迷惑かけたのに謝りに行ってへんやん」


 研究所に頻繁に通っている訳ではなかったので、美しいほどに忘れていた事を、過去の文献集を見ていて改めて気付く。そのページに書かれていたタイトルは、生命体物質の復元と生命エネルギーの相関性、である。マルセリーノはその時、涼太とジュリア、タッタリアとリン、その顔を鮮やかに思い出す。そして、無断で宇宙電子工学部の倉庫から完成した装置をリンに運び出させた事。そして、装置が盗み出された時のジュリアーノ宇宙電子工学部教授はどんなに驚いた事だろうと。既に何年も経っているのに、同じ研究所にいるのに、書面で謝罪しただけで実際に会って、しっかりと謝罪したことがない。


 マルセリーノは研究所を出ると、しらすの豪華詰め合わせセットを買い、そのまま所内にあるジュリアーノ宇宙電子工学教授の部屋へと、長い廊下を歩いて行った。

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