12
「……これは、どういうことなんだ?」
石を見ながら、ジンが尋ねた。環も石に目を落とし、答えた。
「このどちらかが、あなたの求めているものなの」
「どっちなんだ、それは」
「あなたが選ぶのよ」
環は目を上げ、ジンを見て言った。「私が父から託されたの。いつか魔界から、魔力を取りに来るものが現れるかもしれない、って。でもよくない者がそれを取っていかないように、二つの石を用意したの。一つには魔力が入ってる。でももう一つは――ただの石ね」
「それを私に選べと――」
ジンが絶句している。環は穏やかな笑顔になった。
「簡単なことよ。父が言うには、魔界の王として相応しい者は、どちらが魔力のある石か間違うことがないというの。だからあなたにもわかるはずよ。どちらを選べばいいか」
「わからない」
ジンは石をじっと見つめた。「これはどちらも同じ石だ。いや、色は違うし、形も多少違うが。けれどもどちらもただの石で――」
声が動揺している。ジンは顔をしかめた。
「私にはわからない。私は選ぶことができない」
辛そうに、そう吐き出した。耕太は横で、励ましたい気持ちになった。
「できるよ!」耕太は言った。「選ぶことはできる。だって、ジンは魔界の王子で、跡継ぎなんだし……」
「そう言われても」
「どっちかほら、ぱっと選んでみたらいいんだよ」
ジンが呆れた顔になり、そしてむっとしながら言った。
「ぱっと選ぶったって、私がはずれを引きやすいこと、君も知ってるだろう?」
「でも!」ふいに耕太の中にある考えが浮かんだ。もしかしたら――僕ら兄弟があげた魔力を使わずまだここで持っていたら――そうしたらそれを利用して、どちらの石が当たりで、どちらがはずれかを選ぶことができたのでは――。でももうそれは使ってしまって、おそらくジンの手元には残っていないわけで――。
芽衣を助けてって言ったから。芽衣を助けるためにジンは、僕らからもらった魔力を使ったんだ。僕が助けてって言わなかったら。ううん、でもジンは、僕が何も言わなくても、芽衣のためにその力を使っただろう。
とはいえ、後ろめたさが耕太の胸に込み上げてきた。耕太の声は気づかぬうちに大きくなっていく。
「でも、今まではずれを引いていたのは、その中身がなんだかわからなかったからで! おにぎりを外から見ても、中の具はわからないよね。でもこれは違う――これはきっとわかるよ。ジンが目を凝らせば、どちらの石に魔力があるか、ちゃんと見てとることができるよ!」
「いやだから、さっきからわからないって言ってるじゃないか……」
ジンはますます呆れた顔になって耕太を見た。そしてさらに何か言おうと口を開いたが、ためらった後、閉じた。耕太は訴えるように強く、ジンを見つめた。
すでに使ってしまった魔力の代わりになるものを――そうだ、またジンに魔力をあげればいいんじゃないか。好意や愛情が魔力になるというなら、僕はジンのことが好きだし、芽衣や僕らを助けてくれた今となってはすごく好きだし、僕一人じゃ足りないかもしれないけど……でも、ひょっとしたら四人分くらいの魔力くらいあるんじゃないかと思うんだ――。
気圧されたのか、ジンの表情がふいに和んだ。そして箱のほうに身体をむけた。
「……うん。まあそこまで言うのなら……」
ジンは箱に目をやる。輝く二つの石のほうに。ジンは笑った。顔を上げて。大胆不敵ともいえるような笑いだった。
「魔界の王として相応しい者、か。私は試されているのだな。でも私は――私は今度ははずれを選ばない――」
そう言ってジンは、石の一つに手を伸ばした――。
――――
さて、ここからどうなったかというと。話はここでおしまいなんだ。つまり、ジンは正しいほうを選んだ。はずれは選ばなかった。ちゃんと魔力のある石を選んだんだ。
もしそうじゃなかったら、さらにひと騒動あって、この話ももう少し続いていたかも。だけど違うんだ。ジンは正しい選択をして、魔力を手に入れて、これでお父さんの病気も治せることになって、魔界に帰っていった。
僕は――思うんだ。おばあちゃんの言ってたことは本当だったのかな、って。石の話。どちらかが当たりでどちらかがはずれ。魔界の王に相応しければ、当たりを選ぶことができる。
この仕組みを作ったのはひいおじいちゃんだよね。でもさ、人間の、魔法使いであるとはいってもただの人間で、魔界にも何も関係がないひいおじいちゃんが、魔界の王の選定に関与してるって、なんだか不思議じゃないか。
あの石は――本当は当たりもはずれもなかったのかも。おばあちゃんか、はたまたひいおじいちゃんが嘘を言った。なんのためにかわからないけれど。
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