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 そして他にもまだよくわからないことが残っているのに気づいた。ジンが祐希に言った「もう、もらった」の言葉だ。あれは一体何のことなのだろう。


 曾祖父が体内に出したという魔力を、ジンがどこかで手にすることがあったのだろうか。


 耕太はサミアに尋ねてみた。サミアは無表情で話を聞き、そして完結に答えた。


「あなた方から力をもらったのですよ。あなたのひいおじいさまの身体から魔力を取り出すには、そのための特殊な魔力が必要であり、それはこの砂原家の子どもたちからしか得られぬものだったのです。

 そもそも我々魔物は、人間から魔力を、力を得ることができるのです。人間が我々に向ける好意や愛情といったものが、それが魔力になるのですよ」


 耕太がいまいち呑み込めず面食らっていると、隣で環がくすりと笑った。


「私の父が魔界の王子からもらったものもそれなのよ。父の好意や愛情が王子の、現在の王様ね、その魔物の魔力となり、けれども王子はそれを自分のものとせず、父に返したのね」

「でもいらなかったようですね」


 サミアが素っ気なく言った。環が小首をかしげる。


「いらなかったわけじゃないのよ。ただ――あまり使う機会のないものだから」

「ええと……」


 耕太は呟いた。ジンは僕らの愛情が必要だったんだ。そして僕はジンのことが好きになったし、たぶん、兄弟たちも――芽衣はわからないけど――そうか、だから、「もう、もらった」って言ったんだ。


 そしてその力を使って、ジンはひいおじいちゃんの命を奪うはずだったんだけど。でも、それをしなかった。たぶん、迷ってためらいがあって、そして――。


 耕太はサミアを見た。今ここで、呑気に話している場合じゃない。


「早くジンにほんとのことを教えてあげなきゃ」

「それでは参りましょう」


 そう言って、サミアの身体がたちまち消え失せた。耕太はおどろき、しばらくサミアがいた空間を見つめていた。ジンの存在によって、魔法だのなんだのを受け入れられる余裕ができたように思ったけれど、けれども次から次へと変なことが起こったり意外な事実が判明したり、混乱するばかりだ。


 そもそも今日は朝から変だったんだ。なぜだか昨日が繰り返されており――そうだ! 耕太ははっとして、環のほうを振り返った。


「おばあちゃん! さらにおかしなことが起きてるんだよ! 今日は8月29日のはずなんだけど、そうじゃなくて28日で、昨日が繰り返されてて……!」

「知っているわ」


 環は穏やかに答えた。耕太はその返答をほとんどおどろくことなく受け止めた。そうじゃないかと思っていたのだ。環もこの事態を知っているのではないかと。だって、環は、おばあちゃんは、魔法使いなのだし。


「たぶん――芽衣が原因ね」


 硬い声で、環が言った。耕太は、今度はおどろいた。


「芽衣が?」

「そうよ。芽衣はね、私と一緒で――魔法使いなの」




――――




 芽衣が……魔法使い……。耕太は黙った。意外な事実が次々判明して、ずいぶんとびっくりしたなあと思ったけれど、でもまだびっくりすることが残っていた。


 おばあちゃんも魔法使いだしひいおじいちゃんも魔法使いだし……。意外とこの世には魔法使いがいるのかもしれない。


「祐希も少し魔法が使えるわ」


 環がさらに言った。耕太はとたんにどきどきしてきた。芽衣も祐希兄さんも魔法使い……ということは、僕も!?


「あの! 僕は……」


 どきどきしながら、耕太は訊く。環は少し困った顔になり、言った。


「魔法の力があるのは、私の孫の中では、祐希と芽衣だけなのよ」

「そうなんだ……」


 がっかりする。でも、そうじゃないかと思っていた。今まで不思議な経験をしたことはないし。僕はやっぱりただの人間――まあでもそれでいい。僕だけじゃなくて、慎一兄さんも翔もそうなんだし。


 自分を納得させて、耕太は環に質問をした。


「芽衣が魔法使いで……それが今の変な状況とどう関係があるの?」

「芽衣が時を止めているのよ。彼女の魔法で」

「そんなことできるの!?」


 おどろいて声が大きくなってしまう。環は険しい顔で頷いた。


「できるのよ。芽衣は――私よりずっと強い力の持ち主なのよ。でも本人はそのことを知らないの。自分が魔法を使えるということを。私が――言えばよかったのだけど。

 強い力というのは危険なものなの。上手く制御できなければ……持ち主にも害をもたらすわ」

「なぜ、芽衣は時を止めてるの?」

「わからない。彼女自身も、自分が繰り返す一日の中にいるって知らないはずよ。無意識にそれを行い――でもその動機まではわからない」

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