2
「嫉妬してるのね」
「嫉妬? どういうこと?」
「やきもちってことよ」
「それは知ってるよ。誰が、誰に嫉妬してるの?」
「あなたが、翔に。ジンをとられたと思っている」
「思ってないよ!」
つい、大きな声を出してしまった。翔が二人に気づき、声をかけた。
「宿題終わったんだ。一緒に遊ぼうよ」
「うん、でも読みたい本があるからね」
耕太はつい断ってしまった。そして、二人に背を向けて、離れに戻ったのだった。
――――
離れで読みかけの本を手にする。寝転がって、ページを開いたものの、どうも文章が頭に入ってこなかった。芽衣の言ったことが気にかかっている。
やきもちなどではないはずだ。ただ……翔のことは好きだけど、よい弟ではあると思うけれど、時々どうかと思うことがある。
調子がいいんだよ、基本的に。軽薄っていうとあんまりかもしれないけど、でもそういう部分がある。そして周りがそれに気づかない……ううん、気づいても、なんだかんだでかばわれてる。少しずるいと思う。
それに比べると自分は損な性格だなあと思う。翔は周りの大人たちから好かれやすい。明るくて無邪気だから。でも自分は――暗くて面白くないから。
いや、そうじゃない。ネガティブな面ばかりではないとは思うんだ。ぱっと見、面白くないやつに思われるかもしれないけど、でも中身はそんなに悪くないと思うんだ。根気よく付き合ってくれたら、きっとそのことに気づくはず。でも世の中にはあまりそういう人がいないから……。
考えているうちに空しくなってきた。
耕太は本を置いて、天井を眺めた。やっぱりこれはやきもちなのかもしれない。自分が欲しいものを、容易く手に入れることができる弟に、意地悪な気持ちを抱いているのかもしれない。
そもそも――耕太は考えた。なんで僕は「兄さん」って呼ばれないんだろう。僕は慎一兄さんのことも祐希兄さんのことも、ちゃんと「兄さん」って呼んでる。でも翔は僕のことを「兄さん」って呼ばないし……。いや、僕だけじゃなくて、翔は兄たちみんなを呼び捨てにしてるけどさ。
でもおかげで、四兄弟の中で、僕だけ兄なのに兄じゃないみたいなことになっちゃった。
三番目って損だよな、と耕太はさらに思うのだった。慎一兄さんはなんといっても一番上だから注目される。祐希兄さんは顔がいいし、勉強もスポーツもできるし、これも注目される。末っ子も末っ子で可愛がられる。
僕だけなんにもないじゃないか。
不満はつきなかったが、時間は進み、昼が近くなった。今日は子どもたちだけなので、昼ご飯は自分たちで用意しなくてはならない。
立ち上がって台所に行くと、芽衣がいた。ご飯がたくさんあったので、一緒におにぎりを作る。それと昨日の残りのお味噌汁と魚で十分でしょうと芽衣が言う。
芽衣と一緒に他愛ない話をしながら台所で働いていると、気分もほぐれてきた。笑顔が戻り、なんだかつまんないことで腹を立てていたな、と思う。昼食の支度が大体整い、芽衣が翔とジンを呼びに行った。
食堂に二人がやってきた。ジンがテーブルに並べられたお皿を見て言った。
「私の分もあるのか?」
お皿は四人分用意したのだ。芽衣がその質問に答える。
「そうよ。でもあまり食べ物が減ってると怪しまれるから……味見程度にしてほしいんだけど」
「いいよ、構わないよ! ありがとう」
そう言ってジンは席についた。
耕太が大皿に乗せたおにぎりを持って現れた。テーブルに置くと、さっそくジンが手を伸ばす。
「あ、一つ、梅干しが混じってるんだけど……」
用意していたおかかや昆布がたりなかったので、梅干しも一つ作ったのだ。ジンは気にせず、おにぎり
を一つ手に取った。
「大丈夫だよ。これだけあるんだから。こんなにたくさんのおにぎりの中から、たった一つのはずれを選んだりしない」
みんながそろって、いただきますをして、食事の開始となる。おにぎりにかぶりついたジンが顔をしかめた。
「すっぱい……はずれだった……」
「すごいわね、このおにぎり10個以上あるのに」芽衣が大皿を見て言った。「どうしてその中から適格にはずれを選ぶことができたの? 魔法?」
「魔法なもんか」
ジンはむっとして言い返し、そして黙っておにぎりを食べた。
「ジンははずれを引きやすいんだよ」おにぎりを頬ばったり、お味噌汁を飲んだりするのに忙しい翔が、その合間に言った。「一緒にゲームしてるときも思ったんだ。なんていうか、運が悪いの?」
「そうなのかもしれない……。いや、違うな。魔界ではこんなことはない」
きっぱりとジンは言う。耕太は苦笑した。
「魔界と人間界では少し違うのかもね」
「ああ、そうなんだ。使える魔法も限られてるし、いろいろな制限もあって――でも……」
そこまで言ってジンは首をひねった。
「でも、運まで悪くなるものかな」
誰もその疑問に答えることはできなかった。が、真面目な顔をして考え込むジンがかわいらしく面白くて、子どもたちは笑ったのだった。
――――
昼食を済ませ、後片付けをして、それから少したった頃。急に翔が言ったのだった。
「恐竜の世界に行こうと思う!」
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