第20話売れ行き過剰

「お待たせしました。レモン味、練乳ありです。食べ終わったら食器と交換でお茶をお出ししますので、ごゆっくりおくつろぎくださいね」


 にっこり笑いながらかき氷を手渡すサエちゃん。


 その人気は凄まじい。


 ポーシャたちに紹介した時も、日本語の挨拶をオレが翻訳して伝えたにも関わらずあっというまにみんなと打ち解けた。


 あのコミュ力の高さはどこから生まれるんだろう?


 とはいえさすがにお客さんとの会話は当然ながら無理だ。


 なので、オレたち男子組が作ったかき氷を手渡す役をやってもらうことにしたんだけどこれが大当たり。


 黒髪で小柄なサエちゃんは、ここの人たちから見たらまさに大和撫子……もちろんそんな言葉はこちらにはないんだけど、態度や表情が穏やかで、容姿端麗、清楚に見える……らしい。


 お客さんの中には受け渡しの時にサエちゃんの手を握ろうとする奴も――


「お客さん、困りますねえ。うちはそういう店じゃあないんで」


 まったく、次やったら出禁にするからな。


 で、サエちゃんなぜ嬉しそうなんだ。


 いちおう食器返却でお茶うんぬんの話はポーシャもお会計の時に伝えてはいるので、言葉が通じなくても問題にはならないと思う。


 というよりも、身振り手振りやアイコンタクトで通じてるんじゃないか疑惑まであるくらいに意思疎通が取れているんだよなあ。


「店長、手が止まってますよ。あと、次の氷をお願いします」


「お、ごめんごめん。……よいしょっと。氷はこれをいれて残り5貫目だ。疲れてきてるだろうけど、あとちょっと頼むな」


「はい、任せてください店長」


 氷は貫目という単位で表すんだけど、1貫目が約3.75キログラムある。つまり、5貫目で18.75キロ。


 1貫目の氷から、オレの屋台の場合は13杯とれる。


 つまりあと65杯か。


「ポーシャ、サエちゃん、あと65杯くらいだ。おーい、手の空いてる女の子、悪いけど後ろのほうのお客さんに売り切れそうだって声をかけてきてくれるかー?」


「はーい。わかりましたー」


 タタタと駆けていく女の子。


 そう。今では列はちょっと信じられないくらいに伸びている。


 昨日の反省からかき氷機を急遽1台追加して男子チーム3人で、2機の機械をフル稼働させているけどそれでも生産スピードが追いつかない。


 機会損失が痛いなあ。


 でもかき氷機を3機にしちゃうと、オレたちの体力が間違いなく持たないからなあ。


「たーくん、お客さんお待ちだよ、急いでねー」


「はい、ただいまー」


 こりゃ、明日は筋肉痛だな。

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