第21話ある日

かき氷の販売をはじめて、もう早1週間。


 今ではすっかりマジリハ湖の名物のひとつになったんじゃないかななんて思えるくらいには売り上げ好調だ。


 ポーシャはだいぶ緊張もしなくなってきて、孤児院の年下の子たちに指示も出せるようになってきている。


 サエちゃんはいまだに言葉に苦戦中。かき氷を売り切ったあとは孤児院の手伝いをしながら院長に実地の中で言葉を学んでいる。


 こっちの言葉と50音の対応表を見ながら、日本に帰ってからも勉強しているというんだから凄い。


 苦戦中とはいうものの、いらっしゃいませやありがとうございましたはもちろん、オーダーをとったりするくらいにはもう話せている。


 無理なのは日常会話なのだけど、本人は「昔から外国語とか苦手なのよ」とまだまだ納得がいってないみたいだ。1週間じゃ、オレなんかABCくらいしか覚えられないぞ。


 オレはオレで、腕のぜい肉が少しは取れてシュッとしてきたんじゃないかと思うけど。


 そんなある日。


「なるほどなるほど、これがかき氷ですか。確かに、美しくおいしいですね。なによりもこの暑い季節に氷をこれほど使った氷菓とはとんでもないことです」


 平民とは明らかに身なりの違う初老の男性がやってきた。


 立ち居振る舞いからして、品があるなーなんてかき氷を作りながら見ていると


「お嬢さん。こちらのお店の責任者の方とお話がしたいのですが、取り次いでいただくことは出来ますかな?」


「は、はい。確認してきますから少しお待ちください!」


 いきなり頼まれたポーシャがアワアワとやってきた。


「あ、あの、あのあの、店長、お客さんがあの、ええと……」


 明らかに上流階級の人に頼まれごとをされてパニックになってるぞ、ポーシャ。


「大丈夫、聞こえてたから。とりあえずポーシャ、次のお客さんの注文聞いて。悪い、少しだけ離れるから作るの変わってくれるか」


 パニクってるポーシャの頭をポンポンしてから、サエちゃんに交代を頼んだ。OKの合図を指で返してきたし、あとは任せるとしようか。


「お待たせしました。オレが店長のタケシです。ええと、あなたは?」


「これは、失礼致しました。私、アルフォンス・フォン・オルシャー伯爵の家礼を務めておりますロロンと申します。お忙しいところ申し訳ありません」


 そう言うと、ロロンさんは腰をしっかり折って頭をさげた。


「いや、大丈夫ですから。オレなんて屋台の店長なんですし、そんな大したモンじゃないですから」


 うむ。なんかオレの対応も変な感じになってしまったな。だけど仕方ない。うん、仕方ないのだ。


 なにしろ伯爵家の使いの人……それも下っ端ではなく執事と肩を並べる家令の人にいきなり頭をさげられたらただの庶民であるオレなんかは、とても居心地が悪いのだ。


「お忙しいと思いますので、さっそくですが用件をお伝え致します。実は、アルフォンス様の長女であるエリファお嬢様が10日後に成人なされてその祝いのパーティーが開かれるのです。そこで、ぜひ今マジリハで話題のタケシさんにかき氷を出品していただきたいと考えているのですが、いかがでしょうか?」


「ええええ?!」


 あまりの急展開に、思わず驚きの声をあげてしまうのでした。

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