第14話その味は

「それでは、お待たせしました。いらっしゃいませ!」


「「「いらっしゃいませー」」」


 おお、特別指示したわけでもないのにちゃんと声出しできてるなあ。


「ふふふ、長い時間待った価値が本当にあるのか楽しみだわ」


 いちばん先頭のお客さんは、なんでもあの串焼きのオヤジの娘さんなんだそうだ。


 ゴツいオヤジには似ることはなかったようで良かったね。奥さん似なのかな? ちくしょう、オレは彼女すらいないのに。つきまとってくる変なのはいるけど。


「ふーん、いろいろな味があるのね。いちご、メロン、レモン……ブルーハワイ……?」


 食品サンプルのかき氷を見ながら首をかしげるオヤジの娘さん。


 まあ、ブルーハワイなんて味の想像つかないよなあ。実際、ブルーハワイ味っていうのは決まった味は存在しないしね。


「どれも聞いたことのないものばかりだけど、どれも本当にキレイね。よし、わたしはこのいちご味のかき氷をもらうわ」


「はい、ありがとうございます。銅貨10枚になります。もしよろしければプラス銅貨2枚で甘い練乳をかけることもできますがいかがですか?」


「レンニュー? 聞いたことないけど、どんな物なの?」


「ええと、簡単に言えばミルクにお砂糖を加えてトロトロにしたものです。かなり甘いですよ」


「またお砂糖……それがたった銅貨2枚で? もちろん、レンニュー有りでいただくわ!」


「ありがとうございます。銅貨12枚いただきます」


 へえ、やるなあポーシャ。ナイスなサジェストだぞ。案外、売り子の才能があるのかもしれないなあ。


「店長、いちご味、練乳ありでお願いします!」


「はい、よろこんでー!」


 おっと。どこぞの居酒屋やお好み焼き屋みたいになってしまった。


 この世界ではじめてのお客さんだけに、さすがに緊張するぜ。


 オヤジ? 昨日のはただの試食であって、売ったわけじゃないからノーカン。


 器を機械にセットして、あとはひたすらシャリシャリ。


 シャリシャリシャリシャリシャリシャリ


 作り手に任命した男の子たちもしっかり見て作り方を覚えてくれたまえ。


 器を回しながら盛り付けるのがコツだぞ。


 山型にきれいに盛り付けたらレードルでシロップをかけて、さらに練乳を見た目がきれいになるようにかけたら出来上がりだ。


「お待たせしました。いちご味かき氷、練乳がけです」


 出来上がったかき氷を見たオヤジの娘さんや、列に並んでいる人たちから「おおーっ」と歓声があがった。


 太陽の光で氷がキラキラ光って、写真映えするいい感じに仕上がったな。


「いそいで食べると頭がキーンとすることがあるので、少しずつ召し上がってくださいね。あと、器を返却していただいた時にお茶のサービスがあります。それではごゆっくり」


 ペコリと頭を下げるポーシャ、かわいいなあ。


 あんな子が前のカフェにいたら人気出ただろうなあ。


 あ、まだ14歳だから無理か。


「ほ、本当に冷たいのね」


 オヤジの娘さんは落とさないように慎重に運び椅子に着くと、見た目をしばらく楽しんだあとスプーンをそっと差し込んで……


 パクっ


 カッ!


「こ……これは……」


「これは?」


「これは……」


「これは?」


「口の中で起こる雪崩に抗えない! これはまさしく、雪山の大噴火よ!」


 うんごめん、意味が分かりません。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る