第12話値付け

 串焼き屋のオヤジさんに怒鳴られて、耳がキンキンするぜ。


 ポーシャに至っては、びっくりしすぎて耳を押さえるはずの両手がバンザイのポーズになっちゃってるぞ。


「な、なんですかいきなり。よく分からないけど、それは早く食べないとダメになっちゃうんでとりあえず食べてみてくださいよ」


「ああ、言いたいことはたくさんあるがまずは食わせてもらうとするか」


 サクッ。パクリ。カッッ!!


 パクパクパクパクパクパクパク


 ひとくち食べたと思ったらいきなり目を見開いて凄い勢いで食べ始める串焼き屋のオヤジ。


 だけどそんなに慌てて食べたら……


「ぎゃーーっ! あたま、頭が痛いーっ」


 ほら言わんこっちゃない。あ、言うの忘れてたか。


「慌てて食べると頭がキーンとしますから気をつけてくださいね」


 そう言いながらポットに入れてきた温かいお茶を湯飲みに注いで渡してあげると、ガブガブ勢いよく飲み干してようやく落ち着いたみたいだ。


 というか、食べるのも飲むのも早過ぎるだろ!


「……で、これが銅貨5枚だってか?」


「あ、はい」


「そっちの……ポーシャは、これが銅貨5枚で売っていい物だと思うか?」


「い、いえ、その……ちょっぴり安いかなとは思います」


「ちょっぴりなんてレベルじゃねぇぇぇ!」


「ひい! ごめんなさいごめんなさい!」


 そんなに安いかなあ?


 そう。オレが売るつもりなのはかき氷だ。


 昔からあるガリガリのかき氷ではなく、フワフワに削った柔らかい氷にシロップをかけて食べてもらう今流行りのほうのかき氷。


 銅貨5枚で約500円。そんなにおかしな値段じゃないよな?


「はあ、いいか。まずこの氷だ。このカキゴーリだったか? この量でも、氷代だけで銀貨1枚はくだらねえ」


「え? 銀貨……?」


 いやいや、そんなにしないでしょ。1万円だよ?


「で、だ。この甘いシロップとやら……俺は話に聞いたことがあるだけだったんだが……ひょっとして、砂糖ってやつを使ってねえか?」


「あ、よく分かりましたね。砂糖を溶かした煮詰めて香りを付けたものがそのシロップで――」


「その砂糖、な。砂金と同価値と言われる胡椒よりも遥かに高額で、少なくともマジリハじゃ手に入らん。王都の貴族向け高級店でも手に入るかどうか……」


 オヤジの言葉に、ポーシャが固まってうわごとのように「お砂糖……金……氷……金……」と呟いている。


 はやく帰ってこーい。


 でもまあ、オヤジの言わんとすることは理解した。


 冷凍庫の無い(多分だけど)この世界では、冬場の氷を夏のこの季節に手に入れるのはかなり難しいんだろうな。それこそ魔法やマジックバッグでも使わないと運搬もままならないだろうし。


 砂糖は……高いかなあと思ってはいたけど、まさか胡椒よりも高いとは、ねえ? 思わないよ。


「つまり、安すぎる?」


「そういうことだ。兄ちゃんがどうやって氷や砂糖を調達してきたのかは聞かねえが、これなら銀貨の2〜3枚はとれる。いや、もしかしたらもっと高くても金持ちは買うかもしれねえな」


「うーん、銀貨2枚ですか。それはちょっとなあ」


 かき氷1杯2万円って、どんだけだよって感じだよね。


 オレならぶっちゃけ2万もあれば銀座でお寿司でも食べたいです。いや、そうじゃなくて、1杯2万円なんて屋台で出す食べ物のじゃないよな。


 うん、よし決めた。


「オヤジ、決めたよ」


「だれがオヤジだ。で、いくらにするんだ? 銀2か? 銀3か?」


「銅貨10枚」


「そうかそうか、銀貨10枚か。それならまあ

 ……おい、今、銅貨っつったか?」


 オレは自信まんまんに胸を張って大きく頷く。


「銅貨10枚。ただし、ひとり1杯まで。オレはね、できるだけたくさんの人に喜んでもらえる仕事がしたいんだ。銀貨何枚なんて値段をつけたら、買える人はきっとひと握りでしょ? それより、大勢の人に食べて貰ったほうがオレは嬉しいんだ」


「に、兄ちゃん……お前ってやつは……」


 あれ、オヤジがプルプルしだしたぞ。


 やばい、せっかく注意してくれたのに聞かなかったから怒られる?


「俺はっ! 感動したっ!」


 がしっ。ぶんぶん。ぎゅー。


 いや、ぎゅーはやめて! むさいし暑いし、ええと、とにかくやめて!


「明日は俺も仲間たちに声をかけてみんなで食いに行くからな! 楽しみにしてるぜ!」


 そしてガハハと笑いながらオヤジは歩いて行ってしまったのでした。

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