第11話試食

「あの店長?」


「ん? どうしたのポーシャ」


 商業ギルドをあとにしたオレたちは、屋台を出す場所の下見に向かって町ブラしていたんだけど、ポーシャがふと何かに気が付いたかのようにオレに声をかけてきた。


「いえ、そういえば肝心の屋台はどうするのかなと。手作りしていたら時間がかかりますし、注文するとなるとあの……かなりのお金がかかりますし」


 心配そうな表情を浮かべるポーシャ。


 そういえば、まだ説明してなかったか。


「大丈夫、屋台ならすでに持ってるからさ」


「あ、そうなんですね。すいませんわたしなんかが余計なことを」


「いや、何かあったらどんどん言ってね。オレも見落としていることはいろいろあるだろうし、お店はオレ達2人でやるんだしさ」


 日本のカフェで働いていた経験があると言っても、所詮は雇われの身だったしね。


 いちおう調理から接客、会計まである程度はこなせると思うけど人を使うのも初めてだし、なにより異世界だもんな。風習なんかも全然違うところがあって当然だ。


 そんな時はやっぱり頼りになるのはポーシャだろう。


 日頃から積極的に意見を出してもらう必要があるわけで、コミュニケーションは円滑にとれるようにしておかないといけない。


 もっとも甘やかしてすぎるとバカッターみたいな奴も出てきたりするわけだけど、家族を亡くしたばかりで後のないポーシャがそんなことをしたりするわけがない。もしまた職を失えば、孤児院も頼れなくなる未来はお先真っ暗なのだから。


「よし、このあたりなんかいいんじゃないかな。どう? ポーシャ」


「はい。湖も近くて景色もいいですし、大通りからもすぐで人通りもそれなりにあります。飲食の立地としてはいいと思います」


「だよね。よし、ここにしようか」


「はい、分かりました」


 場所が決まれば、まずは掃除から。自分たちの場所だけじゃなくてそのご近所まで掃く日本流。


 せっせと2人で掃除をしていると、そんな光景が珍しかったのかひとりの男性に声をかけられた。


「よう兄ちゃんたち、そこで屋台出すのかい?」


「ええ。明日から開店しますので、よければぜひ来てくださいね。……って、あなたは確か串焼きの屋台の?」


「ん、そういう兄ちゃんは他所から来た変わった服を着てた兄ちゃんか。ってことは、屋台で出すのも変わった料理か何かなのかい?」


「そうですね、ちょっとした物だと思いますよ。よかったら試しに今食べてみます?」


「お、いいのかい? ならせっかくだ。食ってみるぜ」


「分かりました。……ポーシャ!」


「ひゃ、ひゃい!」


 いきなり呼ばれてビクッとしてるけど、オレってそんなに怖いのだろうか? そんなことはないと思うんだけど。


「練習を兼ねて、ポーシャが作ってみようか」


「わ、分かりました。死ぬ気で頑張ります」


「いや、気楽にやってくれればいいからね。まずは、この機械に……」


 …………。


「はいどうぞ。お待たせしました」


「……お、おい兄ちゃん、これってまさか」


「ええ、暑い季節にはピッタリですよね」


「……これをいくらで売るつもりなんだ?」


「そうですね、銅貨5枚くらいでと思ってますよ」


「……こんの、ばかたれが〜〜〜!!!」


 な、なんだよいきなり。

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