第9話買い出し

「へー、ここがあの有名な合羽橋かあ」


「最近じゃなんでもネットで買えるけど、やっぱりこういうふうに実際に見ながら買い物するのもいいもんだよな」


「だよねー。あ、あのスパゲッティおいしそう!」


「あれ、食品サンプルだぞ」


「むしろ本物よりおいしそうに見えるよね」


 そんなことを話しながら合羽橋を歩いて目当ての店を探す。


 合羽橋は都内でも有数の調理関連商品が並ぶ、プロ御用達の街だ。


 オレみたいなアマの料理好き人間もよく訪れる場所で、ここに来ればプロが使うような機材も簡単に手に入れることができる。もちろん良い物はそれなりの値段がするけど、職人さんの入魂の品が手に入ると思えば決して高くはない。


 サエちゃんが目移りしまくっている食品サンプルは海外でも有名で、お土産として購入して行く人もたくさんいるほどの出来なんだけど、物によっては金額が5桁になることもあるほどなんだよな。


「あ、あったよー。こっちこっち」


 サエちゃんがお目当てのものを見つけたらしく、おいでおいでをしてくる。


「手動の業務用だから、こんなのでいいんでしょ? それにしても、今どき電気もないなんてずいぶん辺鄙なところで屋台やるんだね。お客さんちゃんとくるといいけど……」


「まあ、なんとかなると思うよ。すいませーん、これくださーい」


 購入した機材はそれなりに重くて持ち帰るのは大変なので家まで送ってもらうことにした。


 伝票を書いてるあいだ「せめて看板娘としてわたしが見ていてあげないと赤字になるんじゃないかしら」なんてサエちゃんがブツブツ言っていたけど、ぶっちゃけ大丈夫だと思う。


 オレが作ろうとしてるアレは季節物だから、暑いこの時期には爆売れ間違いなしだと思う。……売れるよな? 売れたらいいな。 ま、ちょっと覚悟はしておこう。


「あ、結局食品サンプルも買ったんだね」


 あっちの世界では、たぶんまだ無い食べ物だろうからね。説明するのにもサンプルがあったほうがやりやすいしさ。


 その後は容器などのカトラリーを買ってまわり、最後には働いていたカフェに食材を卸してくれていた社長さんのところへ。


 毎朝、自宅へ届けてもらう契約を結んで、これで日本でやることはとりあえず終わりかな。


 オレが屋台をはじめる話をしたら、ぜひ自分も開店祝いで顔を出したいって言われちゃって、断るのが大変でした。


「ねえ、屋台、電気もないようなとこでやるんだよね? 自宅じゃなくて現地へ届けてもらったほうがよかったんじゃない?」


 君のような勘のいい子は大好きだよ。

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