第8話サエちゃん
懐かしの我が家に帰ってきた俺は、とりあえずテレビの時間と身につけている腕時計をチェックする。
あっちの世界で過ごしたのと同じだけこっちでも時間がたっているみたいだ。もしかしたら秒単位くらいの誤差はあるのかもしれないくなどそこまで細かく気にする必要はないだろう。
待ち合わせに遅れないように時間のチェックは大切だからね。……って、あっちに正解な時間が分かる時計なんてなかったよな。どこかで鐘が鳴っているのは聞こえたから、たぶんあれがおおよその時間の目安になってるんだろう。
今の時間は18時5分前。外はまだまだ明るいけど今日はさすがにいろいろありすぎて疲れたから休むことにしよう。
おやす……んごーーーぉ…………。
ピンポーン
んががあぁ
ピンポピンポーン
ぐごごごおぉぉ
ピンポピンポピンポーン
んごおぉ……ふわあ、どうやらお客さんらしい。目をこすりながらドアを開けると、サラッサラの髪に小さな整った顔、小柄なのに主張する部分は主張しているのが特徴女子大生――
「なんだ、サエちゃんか」
「なんだとは何よ。こんなかわいい子がわざわざ独り身でかわいそうなだれかさんのために夕飯作ってきてあげたっていうのに……いらなかったかしら?」
「ありがとうございますサエ様。卑しいワタクシめに施しをいただけるとは、ああ、まさに現代に現れた女神のようです」
「そ、そこまで卑下しなくてもいいわよ。さ、冷めないうちにいただいちゃいましょう」
サエちゃんはオレの隣の部屋に住んでいる女子大生で、実は俺が働いていたカフェでバイトとして働いていた女の子だ。
どんな偶然かたまたま部屋が隣どうしということもあって仲良くなったけど別に彼氏彼女の関係というわけではない。
たまにこうやって料理を持ってきてくれたりするくらいだし、もしかしたら脈ありなんじゃないかとも思うけど、元来のヘタレ性格のせいで勇気が出ず今にいたっているというわけでございます。
「ていうか、もう寝てたの? さすがに早過ぎない? あ、今日デリバリー初日だったんだっけ。オジサンには体力的にきつかったのかなー?」
「だれがオジサンだ。オレはまだお兄さんだ。まったく、サエちゃんといいポーシャといい、男を見る目がないな」
「ん? ポーシャってだれ? 女の子な名前だと思うけど万年彼女なしのだれかさんに外国人の女の子の知り合いなんているとは思えないしなー」
そんなことを言いながらオレをからかおうとしているみたいだけど、サエちゃん、目が明らかにきょどってるからね。まったく、何にそんなに動揺しているんだか。
「ちょっと遠くの町で屋台を出すことにしたんだけど、そこで働いてもらうだけだよ」
「え、そうなんだ? ついに自分のお店を持つ……ってことでいいのかな!? おめでとーっ!」
「あ、ありがとう……って、近い近い!」
サエちゃん、ちょっと距離近過ぎますよ。ムニってなってるから、ムニって。
「ねえねえ、どこで屋台出すの? なんの屋台? わたしも手伝っていい?」
グイグイくるサエちゃんだけど、さすがに正直に話すわけにもいかないよな。というか、指輪はひとつしかないんだしあっちの世界には連れて行くこともできないし。
「かなり遠くだから、今回はちょっと一緒にっていうのは無理だな。屋台はね、ちょうど今の季節にピッタリのアレをやろうと思ってる」
オレは今考えてる案をサエちゃんに話してきかせた。
「うんうん、いいと思うよー。きっと儲かるんじゃないかな! わたしもメニュー開発くらいは手伝っていいよね?」
うーん、まあそれくらいならいい……よな?
「よし、じゃあ明日の午前中に買い出しに行くから朝イチに合羽橋に集合な」
「おー!」
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