第7話ポーシャ

 この町で商売をするっていうのは、指輪が本物だということが分かってからずっと考えていたことなんだよね。


 とはいっても、ひとしきり町の中をブラブラした感じでは文化レベルはよく異世界ものである中世ヨーロッパ風っていう感じだからさすがに地球の技術を駆使した品物を持ち込んで売るっていうのは貴族とか(いるのかまだ分からないけど)に目をつけられそうでおっかない。


 となれば、やっぱり飲食店――それも屋台で出せるようなメニューがいいんじゃないかなと思うんだ。


 香辛料とかを売るのもパスだ。それなら確かに儲かるだろうけど、なんか面白くないんだよね、俺的には。


 もちろん日本での生活も大事だからそっちも何か考えないといけないんだけど……都合よく日本円とこちらの通貨を両替してくれるなんていう機能はさすがに指輪にはないしなあ。


「あ、あの、おじさんのお店でわたし、働かせてもらえるんてすか?」


「うん、むしろこちらからお願いしたいくらいだよ。でもひとつ注意ね。おじさんじゃなくてお兄さんか店長って呼んでくれるかな?」


「えと、お、おにい……店長……」


 顔を真っ赤にさせてモジモジしながら呼んでくれたのは長年の憧れだったお兄さんじゃなく店長でした。な、泣いてなんていないんだからね!


「ん? 店長どうしたんですか?」


 泣いてないから。ちょっと恥ずかしかったからって店長を加えるんじゃなかったとか思ってないから。


「とにかく、これからよろしくね。俺はタケシ。君の名前は?」


「ポーシャです。あの、何も出来ませんが精一杯頑張るのでよろしくお願いします!」


「うん、こちらこそよろしく」


 その後しばらく日陰で休憩しているうちに体調も良くなってきたようなので、いっしょに孤児院の院長さんに挨拶に伺った。


 院長さんは50〜60歳くらいでだいぶ髪が白くなってきてはいるものの、佇まいに品があり上品な感じな女性だった。着ているものはどこからどう見てもボロなのに、人柄がそれを補って余りあると言った感じだ。


「店長さん、どうぞこの子のことをよろしくお願いいたします」


 じきに孤児院を出て行かなくてはならない女の子……いや、15になるなら少女? それとも成人するんだから普通に女性かな? とにかく、彼女のことをだいぶ心配していたようで仕事が見つかったということを知ってとても喜んでくれた。


 明日の昼すぎにまた来るからねとポーシャと院長に別れを告げた俺は人目につかない路地裏で指輪にムムムンと念を込め、無事日本のマイルームへ帰還したのでした。

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