第6話テンプレ2
「き、きみ大丈夫?」
「う……うぅぅ……」
「あ、これは熱中症かなあ。すいません、ちょっと手を貸してくださーい」
顔がほてって意識朦朧とした女の子は、典型的な熱中症の症状をしていたので、近くの人の手も借りて応急処置をしておくことにした。
日陰になっている場所に寝かせてから、配達バッグに入れておいたタオル(安物)を数枚取り出してペットボトルの水で濡らしてよく絞ってからいおでこや脇の下、首周りを冷やしていく。足のつけ根とかもやったほうがいいらしいけど……うん、事案になりそうだからさすがにやめておこうかな。
「これ飲んですこし休めばよくなるよ」
フードデリバリーのお供として持ち歩くために用意しておいたポカリを飲ませると、女の子は少し落ち着いたか、表情を緩ませた。
「もう少し休もうか。あ、そうだ。これも食べな。ゆっくり舐めてね」
真夏の肉体労働者の必需品としてここ数年でいっきに広まってきた塩飴を女の子の口に含ませる。
「うん、もうピンチは脱したかな。あのーすいません、どなたかこの子の家族をご存知でしたら連絡とってもらえませんか?」
おでこの濡らしタオルを取り替えながら日陰に移動させる時に手伝ってもらった人たちに聞いてみたのだけど、みんな目を伏せてしまう。知らないのかな? と思ったけど、どうもそんな感じじゃないかな。
その時
「その子の家族なあ、もういないんだよ」
「え?」
ひとりのおばちゃんが耳打ちしてきた。ちょいちょいと手招きしてきたので女の子を別の人に任せて少し離れて話を聞くことにした。
「その子のご両親とお兄ちゃんなあ、先月家が火事になって、その時に全員なあ。かわいそうにねえ」
「そんな……それじゃああの子は今ひとりで……? いや、家とかはどうしてるんだろう?」
「とりあえず今は孤児院にいるよ。だけどあと2か月で15歳になるからそうしたら孤児院は出て行かなくちゃいけない。普通ならもっと若いうちから手に職をつけて孤児院を出るときには何かしら仕事は決まっているモンなんだけど、あの子の場合はその時間すらない。だから今のうちに少しでも稼ごうとしてこの暑い中無理して辻売りしていたんだろうさ」
おばちゃんに言われて女の子をあらためて見てみると、さっき倒れた場所に摘んだ花をいれたカゴが落ちているのが見えた。
きっと、あの花を売るために頑張っていたんだろうな。
俺がカゴと花を拾って女の子のほうに戻ると、彼女もちょうど意識を取り戻したところらしく、介抱を任せていた人から俺が助けたという話を聞いてペコリと頭をさげた。
「あ、あの……助けていただいてありがとうございました」
「ううん、たいしたことはしてないよ。もう大丈夫かい?
「あ、はい。もうへっちゃらです」
「ならよかった。はい、これ大事なものなんだよね」
「あ、お花……ありがとうございます」
大事そうに花カゴを抱える女の子だけど……聞くのはちょっと悪い気もするけど……
「あの……お花、売れてるの?」
さっき拾ってカゴに戻した時、カゴに空きは無くて売れた様子がなかったんだよなあ。熱中症になるほど長時間売り歩いていたんだろうに。
「あ、あはは……。あんまりうれてない、かな」
やっぱりか。
……。
うん、やっぱりそうだよなあ。
「俺、この町で商売を始めてみるつもりなんだけどよかったら手伝ってくれないかな? もちろん、きちんとお給料は払うよ」
俺の言葉に
「え、ええぇぇー!?」
女の子はたいそうびっくりしていました。
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