第2話異世界への指輪

「もしもし、大丈夫ですか?」


 うーん、まだもう少し……


「あの、救急車呼びましょうか?」


 いや、それよりあと5分寝かせてください……って救急車!?


 あわてて起き上がった俺を心配そうに見ていたのは身なりのいい、いかにもタワマン最上階に住んでいそうな出来る系のオーラが出ているキャリウーマンで――


「フードデリバリーの方ですよね? すいません、最近テレワークで部屋から出ないものでエレベーターが壊れていることすっかり忘れていまして」


 そう言いながら渡してくれた水を飲むと、俺の頭もスッキリしてきた。


「こちらこそすいません、お待たせしたうえ介抱までしてもらって」


 お礼を伝えると同時に視線だけ動かして部屋番号を確認。


【6001】だな。ここで間違いなさそうだ。


 ん……なにかおかしい気がするけど……?


「すいません、今お料理を……あれ?」


 配達バッグを開けてみると、中身がからっぽなんですけど!


「あはは、少しお待ちくださいね」


 慌てて自分の体でバッグを隠してもう1度確認してみるけど、やっぱり空っぽだ。


(まさか、マジックバッグ?)


 不意にさっきまで見ていた夢? を思い出す。


 あはは、まさかね。いくらなんでも考えただけで取り出せる魔法のバッグとか……ふぉぉぉぉう??!


 いきなりバッグの中に現れたのは、間違いなくこのお客様にお届けする料理の入った袋だ。


「あの、どうしました? やっぱりどこか具合でも」


「い、い、いえ。こちら、お届けのお料理になります。間違いありませんか?」


「え、ええ大丈夫ですけど」


「そそそそれじゃあこれで! ありがとうございました」


 俺は転げ落ちる勢いでタワマンの階段を駆け降りていくのでした。


 その後はもうデリバリーを続ける気にもならず、愛用の原付に飛び乗り一路マイホームへ。


 その途中でしっかり気付きました。俺の指に光る不相応に高そうな指輪にね!


「うーん。うーむ。むんむん」


 マイホームに戻った俺は、タワマンでかいた汗を流したあとで指輪をあらためて確認してみることにした。


 宝飾品とか装飾品とかは全然分からないけど、見たこともない素材で作られてる気がするんだよなあ。そしてなぜか俺の指にジャストフィットしてるし。


 いやいや、問題はそこじゃないんだよな。


『やあハニー。待ったかい?』


『あらジャック。わたしはいつからあなたのものになったのかしら?』


『前世で約束したじゃないか。キミはお姫様、僕はしがない兵士。今世では結ばれることは出来ないけど、来世では必ずいっしょになろうって』


『ああジャック。思い出したわ。でもなんていうことなの。ごめんなさい、これを見て』


『え、メ、メアリー。ど……どうしたんだいその指輪』


 今ネットで観てるこの謎の動画、習ったこともないイタリア語の動画なんだよなあ。

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