フードデリバリー配達員をやっていたら異世界に自由に行けるようになったので、日本からいろいろな物をデリバリーして大金持ちを目指します!

クレール・クール

第1話タワマン地獄

「はあ……はあ……くそ、なんでエレベーターが2機とも故障中なんだよ」


都内有数のタワマンの階段をひたすら歩いて上る俺の足は産まれたての子鹿よりおぼつかかず、プルプルと震えが止まらなくなって今にもポッキリ逝きそう。


「しかも……最上階とか……シャレにならんぞ」


俺は最近までカフェで料理人をして働いていたんだけど、最近の緊急事態宣言のあおりをもろにくらって職を失い、とりあえず社会が落ち着くまで今いろいろと話題になってるフードデリバリーをして繋ぐことにしたんだ。


で、今回が初めての仕事だったわけなんだけど。


「60階の最上階まで階段とか……くそ、もうやってられん」


酸欠で意識がもうろうとしてきたけど、あとちょっとだと自分に言い聞かせてなんとか上りきった俺は軽く汗をぬぐって配達先の【6101】号室のインターホンを押した。


「ポチッとな」


ピンポーン


……。


まじかよ、留守かよ!


そう思った時、ようやくドアが開いたのでほっとひといき。


顔を覗かせたのはなんともいえない不思議な感じの女性だったんだけど、なぜか俺のことをじーっと見つめてきたあと、ハアっとため息をついた。


「あっちゃー、まさか見つかるとは思わなかったなあ」


やっちゃった! っていう表情を隠そうとしないどころか体全体でガックリとうなだれてますけど、何を言ってるのか分かりませんが?


「あの、ご注文のお食事をおとど」


「ひっじょーに悔しいけど、見つかった以上はしかないわね。あなたに初回クリア特典を渡します」


「はい?」


配達バッグから料理を取り出そうとした俺を無視してゴソゴソと豊かな胸元から指輪を取り出した女性は、それをドーンと俺に突きつけてきた。


「これはイデアの指輪。これをはめて念じれば、いつでもどこでもお手軽に異世界と行き来が出来るわ。しかもなんと今ならあらゆる言語を理解できる特別ボーナス付きよ!」


「は、はあ。ありがとうございます?」


「さーらーに!」


くるくる回ってビシッと俺の配達バッグを指差す不思議な女性。


「そのバッグもマジックバッグにしてあげるわ。容量無制限、時間停止、収納物は頭で考えるだけで入れるのも取り出すのも出来る、超簡単ズボラ人間御用達仕様でいいわよね」


「は、はあ。それでお願いします?」


俺の返事に満足したのか、うんうんと頷き俺に指輪を渡し、配達バッグを指でチョンとしたと思ったらあくびを浮かべながら女性は部屋へ戻っていく。


「あ、あのお食」


「そうそう、何か困ったことがあったらあと1つくらいは相談に乗らないこともないから、その時はまたいらっしゃいね」


「あ、は、はい」


バタンと音を立てて閉まる扉を見ながら、酸欠で俺は意識を手放したのでした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る