第21話 VS亜竜(2)
羽が無い。
それ以外は、あと一点を除き、大きく変わるところは無い。
上級種になるにつれ使える
さて、いま馬車に迫って来てる
サイズに関しては、ほぼ上限まで達している。目測で18メートルは下らない。『鎖』の情報だと、それに1.5メートル足される感じだ。
しかし――
「20メートルなんて、そんなもんじゃないぞ」
「
「駄目だ……あんなのから逃げられるはずがない」
――馬車の乗客たちには、それよりずっと大きく見えてるみたいだった。
前世で
もっとも、実測が何メートルだろうと、巨大なのは変わらない。あの
俺はといえば、たいして焦っていない。
まあ、なんとかなるだろう。
というわけでだ――この男が、立ち上がって言った。
ルゴシ=チクーナだ。
「いやいや、皆さん運が良かった。このA級冒険者にして金線級魔術師の、ルゴシ=チクーナが同じ馬車に乗ってるところへ
おお、と声を上げる乗客たち。
それを見渡しながら、ルゴシが彼の奴隷たちに囁く。
『鎖』で、俺は聞いた。
やつは、こう言ったのだった。
「分かるね?――これが『何かあった時』だ」
と。
乗客たちに見送られ、ルゴシが馬車を降りた。
そして、馬車を結界で覆った。
「おお。これは……これが金線級魔術師の結界! 皆さん! 魔術を嗜んでない方には分からんでしょうが、これは恐ろしく素晴らしい結界ですぞ! 見てごらんなさい。このキラキラとした白金色の魔力の格子!
乗客の、老人が叫んだ。
さっき『魔術を嗜んでる』と話してた老人だ。
沸き立つ興奮のまま、乗客たちは外を見た。
外では、ルゴシが歩き出していた。
きっと、
それは、如何な?
期待を込めた視線を浴びながら、ルゴシは歩いていく。
10メートル、20メートル、30メートル……
馬車から離れ。
100メートル、200メートル、300メートル……
そして、
500メートルを過ぎた辺りで、誰かが気付いた。
このままだと、どうなるのかを。
「おい、これって……もしかして?」
仮にいますぐ襲ってきたとしても、心配することはない。
ルゴシの張った結界は、俺から見てさえも過剰に堅牢。さっきの老人が言った通り、
「この結界、どれだけ……いや、いつまで保つんだ?」
しかし、結界はいずれ消える。
術式の魔力が尽き、術者からの供給も途絶えたなら。
だから――
そしてその時、ルゴシはいない。
こう解釈するしかない。
「置き去りに……されたのか? 我々は……餌? 囮? 生贄?」
ルゴシは、逃げ出したのだ。離れていく彼を、
「あ、ああ……なん、で………なん、で……金線級魔術師なのに。金線級魔術師が、どうして………」
何故か中腰で固まる老人から、俺は目を移す。
ウィルバーへと。
彼は既に、俺の側から離れていた。
さっきまで、ルゴシが足を組んでた席だ。そこでウィルバーは、両脇に座る少女たちの声に耳を傾けていた。ルゴシの
「わたし、たちは……村から攫われて……売られる途中で………」
「最初は、怖かったけど……売られるなんて嫌だって思ってたけど………」
「売れなかったら、もっと酷い場所で、また売りに出されるから……」
「それが分かったから………早く売られたい……どんな人でも、いいから………買って欲しいって思うようになって…………」
ひたすら、うんざりさせられる独白だ。
とはいっても、他の乗客たちにしたって――
「おい。
「いや、それは無い。あのローブを見れば分かる」
「騙されたんじゃないか? あの、魔術をやってるっていう爺さんと同じで」
「嘘じゃない。あいつの着ていた、あの
「そうだ。だって、ほら。現にこの結界――
「それは、手間を省いてるだけだろうに。無駄な力を、使いたくないんだよ。黙ってたって、そのうち結界は消えるんだから」
「ちょっと、ちょっと待ってくれ! みんな――違うんじゃないか?」
「違うって、何がだよ」
「いま考えるべきなのは『あの男が本物だったかどうか』じゃないだろう? 『我々がどうするか』だろう――違うか?」
――話の結論がどうなるかは、うんざりするほど分かりきってる。
俺は『鎖』を床に垂らした。
「みなさん、ご覧になりなさい!」
足を踏み鳴らし、俺は言った。同時に
「ご覧なさい――彼を! 彼の背中を!」
さらに龍韻を駆使して、乗客たちの視力をアップ。
俺が乗客たちに見せつけた、そこには。
そこには、血まみれでしゃがみ込む、一人の男の姿があった。
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