第7話 ギルドで絡まれる
翌日、朝いちで冒険者ギルドに向かった。
もちろん、爺さんも一緒だ。引きこもってはいるが、棲家をシェルターに提供してることからも分かる通り、最低限の社会性は保持している。ダンジョンで魔物と誤認されない程度の、本当に最低限のだが。
だから、ギルマスからの呼び出しを無視したりもしない。いつもダンジョンを出るのは、採取物の納品と買い出しのためで、ほぼ月に1度。次回は3日後くらいの予定だったから、ちょうど良いタイミングだったともいえる。
棲家に
到着したのは、棲家を出て2時間も経った頃だった。
同じ支部でも、近辺の支部を統括する地方本部とでも呼ぶべき位置付けで、だから建物も大きいし、入り口が季節にあわせて飾り付けられてたりと、どこか垢抜けているというか、都会的というか、文明的だ。
それもあってのことだと思う。
爺さんに続いて俺が建物に入ると、みんな嫌そうな顔になった。嫌なものを見せられたって顔だ。当然だろう。薄汚い格好の老人が、首輪をつけた子供を鎖で引っ張っている。毎度のことで見慣れたかもしれないが、誰も好んで見慣れてしまったわけではない。
爺さんは、ギルドに行くときだけ、俺の『鎖』を持つ。
理由は分からない。
いつも通り、買い取りのカウンターに直行した。
俺が背負った採取袋を、爺さんがカウンターに並べる。冒険者ライセンスを差し出して「頼む」。受付嬢が袋をあらため「ダンジョン苔が3袋にゴブリンドロップが1袋でよろしいですか? ムートさん」。爺さんが頷くと、別の職員が来て袋を査定用の大きな机に運んでいった。
査定が終わるのを待つ間、爺さんは壁際の長椅子に座り、俺はその脇に立つ。部屋全体を見渡せる位置だ。昼前のいま時分、ギルドへ仕事を探しに来る冒険者はいない。良い仕事はみんな、掲示板に張り出された朝いちの時点で無くなっている。いまギルドにいるのは、徹夜や朝駆けの仕事を終えて飲んだくれてる連中がほとんどだ。
こちらを見てくる奴もいるが、不躾という程ではない。いつもなら、このまま査定を待ってれば良いだけだった――いつも通りであれば。
「ご老人!」
だが、今日は違った。体格が良くて表情が若い。同じ様にテーブルを囲み、同じ様に酒をあおっていても、まだまだ周囲から浮いて見える。おそらく新人の冒険者。誰もが抱くであろう印象としては、金のためでなく修行の一環で冒険者をやってる騎士志望の若者。そんな若者っていうか若造が、勢いをつけて立ち上がると、言った。
「ご老人! その子があなたの何なのかは知らないが、仮に奴隷であったとしても、その扱いは、あまりに……あまりに無体なのではないか!?」
「………」
憤った声に対し、爺さんは無言だ。代わりに、飲んだくれどもから声が上がった。「ご老人~」「無体なのではないか~」「あまりに、あまりに~」笑い声に顔を赤くして「ぐぬっ!」逆に引っ込みのつかなくなった若者が、爺さんに向かって一歩踏み出す。
「査定が終わりました。ムートさん。今回も上質な素材の提供を感謝いたします。謝礼は銀貨20枚。内訳としましては――」
だが既に爺さんは、カウンターで金の受け取りを始めている。
それで若者がどうしたかというと――
「ぐぬぬぬぬっ!」
――肩肘を突っ張らせて、爺さんが受け取りを済ませるのを待っていた。「おいおい見ろよ。律儀なこったぜ」「とっとと殴りかかるなりなんなりすりゃいいのによお」「それは、それはあまりにも無体でございまする~」「ぎゃははははは!」そんな声に肩を震わしかけながら、受付嬢が言った。
「ぷぷっ……失礼しました。ではサインをお願いします――ありがとうございます。ところでムートさん。昨今増加の傾向にある魔物被害への対策として、計画的な素材の調達が求められています。次回、いつごろ来られるか予定を教えていただければ、より高値で買い取り出来ますし、それに、その、うちのギルマスも……」
「………」
「……またのお越しをお待ちしております」
爺さんが、踵を返した。
当然、俺もそれに従う。
あれ、このまま帰宅?――と思った、その時だ。
「ムート殿!」
ギルマスが叫んだ。
階段の上から、ほとんど転げ落ちそうな勢いで。
「黙って帰るなんて、それは無いだろう! ひどいじゃないか! いつもならともかく、今日は、ちゃんと呼び出したのに! 約束してたのに!」
「………」
爺さんが、階段を上り始めた。
俺は、それを見上げて下の階に留まろうとしたのだが。
「クサリ! 君もだ――頼むよ」
言われて、2階にあるギルマスの執務室へと上がることになった。
そこで、話を聞いた。
昨日の事件――『お嬢さま』ミルカ=フォン=ゴーマンがゴブリンに襲われ、その後、多数の死体に囲まれながらお茶を飲んでるのが発見された――そんなことが起こった背景に、いったいどんな事情があったのか。
それについての、説明だ。
「まず、ムート殿の
ジョルダン?
お嬢さんが言ってたのは『コーギィ』――全く違う名だ。
「ぢ、ぢが、おじょ、さ、さま、なめ、ま、なまえ……」
俺の訴えに、ギルマスが頷く。
「ああ、違うな。コーギィは偽名で、ジョルダンが本名だ。奴は、偽名でゴーマン家に雇われていた」
背景についてはまだ調査中――そう前置きして、ギルマスが語ったところによると。
彼らの計画は、こうだった。ジョルダンとミシェールが『お嬢さま』とダンジョンに入り、打ち合わせした場所へと向かう。そして到着し次第、冒険者を装った男たちが『お嬢さま』を襲撃する。
言うまでもないが、その『男たち』というのが、あの死体の群れだった。
どうして、
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