第8話

『――――夜。鈍いきしみを立て、扉が開く。いつものことながら、体に力が入ってしまう。意図しない緊張が、布団の中の私に警告をする。また、彼が来たのだ。

 問答もなく、布団がめくられる。パジャマ姿の私が彼の前に出された。


「いや……」

 闇の向こう、彼がいるであろう場所に拒絶を告げる。しかし、そんなことで彼は止まらないのだ。わかっている。けれど、私が拒まなければ、本当にどうしようもなくなる。

 ベッドのスプリングが縮み、彼を受け止める。彼はもう、私を覆うような位置にまで来ていた。


「姉さん……」

 甘い声で囁き、彼が私の頬を撫でる。手はそれから首へ、そしてそのさらに下へ……。

「ダメよ跡永賀。私達、姉弟じゃない……」

「関係ないさ。姉さんが欲しいんだ」


 拒もうと伸ばした腕は、たやすく抑えられる。あの華奢で弱々しかった彼は、いつの間にか自分を組み伏せられるまでに――立派な男のそれになっていた。

 彼の唇が降りてくる。私は涙を目に浮かべた。悔しいのではない。こうされることが嫌ではなくて、むしろ喜んでいる自分がいる。その嫌悪で潤むのだ。


「愛してるよ、姉さん」

 私もよ、跡永賀。

 涙はそっと流れ』




「ブーッ」

「おお。期待通りのリアクション」

 跡永賀の口から放たれた茶が、霧吹きのような噴射を表現した。


「げほっ、えほっ……これって」

「うむ。長女とアットの濃厚な絡みでござい」

「これを姉さんが……?」

「そういうことになるでございな」


 跡永賀は改めて紙面を見る。たしかに、コピーされているのは姉の字だが……

「あの姉さんが……」

「普段おとなしい連中というのは、内面はすごいことになってるものでございよ。その凄まじいエロシーンは、長女の妄想というか、願望でござろうよ」


「じゃあ、あかりへの態度の理由は……」

「嫉妬……ジェラったのでござろう。おそらくは夜な夜な、そんな感じのイメージをおかずに寂しくも激しい夜を……ほげぇ」

 さすがに拳が出た跡永賀は、「そんなまさか」未だに現実が受け止められない。


「やったねアット! イベント回収フラグだよ! ぐえぁ」

 二発目の鉄拳を決めた跡永賀が、深い溜息。

「冗談だろ……」

「いいじゃないか。ボクティンなんて長女からは畜生扱い――ご褒美ではあるんだけどね――なんですぞい」

「ああそうかよ」


 興味なさそうにして跡永賀は退室した。

 廊下を出、正面の扉――冬窓床の部屋に繋がる扉が目に入る。不意に、ノックしようと手が上がったが、すぐに下ろした。語る言葉が見当たらない。姉の考えをまっすぐに問えば、それだけで関係がギクシャクしそうで、嫌だった。

 結局、開いたのは自室の扉だった。

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