第8話

「よし。これだけあれば大丈夫だろう」


「今度はなに始めるんです?」


「在庫整理だ」


「備品係の人も倉庫がパンク寸前って言ってましたからね」


 戻ってきた俺についてきた担当受付嬢は納得する。


「頼まれた分は全部運んだで」


「おう。ご苦労さん」


 浮浪者の一人の報告に俺はうなずく。


「さすがにここまで持ってくるのは備品係の管轄外と言われてな」


「こんなに運ばせたら過労死しちゃいますよ、あの人」


 受付嬢がうず高く積まれた袋の山を見上げる。中は全部ギルドストレージに眠っていた装備強化魔石だ。ちなみにこれでもほんの一部であったりする。


「それじゃスカウト制で依頼したってことで。これ依頼料」


 俺はさっき稼いだ金貨八枚を受付嬢に渡す。


「たしかに。それでは後はこちらで処理しておきます」


 自力で持ってくるのも手間なので暇してる浮浪者たちに運搬は頼んだ形だ。


「みなさん戻ったら報酬分配しますよー」


『うおおおおおおおおおおおおおおお』


 受付嬢の言葉に、浮浪者兼冒険家の面々は喜びの声。


「よっしゃ! 今日はみんなで[のざわな]行くぞ!」


「贅沢するとなったらあそこしかねえしな!」


「マオちゃんが俺たちを待ってるぜ!」


 多分あいつはそこまで君らのこと待っていないとは思う。


「わざわざ事務局を通さなくても、普通に頼めば手伝ってくれたと思いますよ」


「形だけでもギルドや冒険家の活動実績はあるに越したことはないだろ」


「そういうことですか。ご配慮くださりありがとうございます」


 ログボ目当てのタカりみたいになってると、この頭を下げる彼女にも心苦しいしな。




 わらわらと冒険家協同組合事務局に戻っていく一団に軽く手を振ってからゴザに腰かけると、ロミーネは相変わらず丸まっていた。かと思えば立ち上がり、どこか行った。トイレかな、と思っていたら、手に何かを持っている。少女はそれを自分の前に置いてから、またごろんと横になった。


「?」


 これには首を傾かしげる。こんなボロ皿が売り物になるのだろうか。


 まあ邪魔になるわけでもなし。好きにさせておこう。


 …………。


 …………。


 …………。


 客来ねえな。


 うーん。最初にスパッと売り切れたのがよくなかったかな。


 なまじ最初にうまくいったから変にハードル上がったというか、期待しちゃったというか。これが本来のあり方なんだろうな。いきなり露天商はじめてポンポン客が来るわけもなし。振り返れば、元いた世界も露天商やってたやつらってすげえ暇そうだった。


 ヒュ~。


 何もしていない上に風除けもないから寒さが身に染みるぜ。


「うう。さぶ……」


 肩を抱いて何か暖を取れるものを探し……


「おお、これだこれだ」


 隣のロミーネを引っ掴んで抱えた。


「あったかあったか」


 子供特有の高い体温か、はたまた炎の精霊の恩恵か、これは素晴らしいカイロだ。こんなこともあろうかと連れてきてよかった。


「おお、なんと」


 二人で身を寄せ合って寒さをしのいでいると、老紳士がやってきた。身なりがいかにも金持ちです、と物語っている。


「おかわいそうに」


「あ、いらっしゃい」


「少ないですが、これを」


 老紳士は懐から銀貨を一枚取り出すとボロ皿の上に置いた。


「あの、これ、商品」


 そのまま去ろうとする老紳士は俺の声に首を振る。


「いやいや。結構」


 え? 


 これなに?


 どういうこと?


「あらあら。まあまあ」


 続いてやってきた、いかにも主婦っぽいおばさんは心配そうにこっちを見て、


「お母さんに逃げられたのね。かわいそうに」


 そのまま銅貨を数枚、足元の皿に転がし、


「少ないけど、何かの足しにしなさい」


 同じくそのまま去っていった。


 この流れが数回。


 商品は売れず、おんぼろの木皿には小銭が積み重ねって山になった。


 ロミーネはその皿を持ち、俺に無言で差し出した。


 いや、これそういうんじゃないから!


 在庫整理で損しないように売りさばいてるだけで、金を稼ぎたいわけじゃないから!


「おお、まだやってた」


 ガヤガヤしてる声に振り向けば、さっき買い占めていった冒険家がやってきた。


「さっきの話をしたらギルメンも欲しいって話になってね」


 後ろの仲間たちを親指で差す。軽く十人はいるな。


「あるだけ買わせてもらうよ」


 結局、その日の仕入れはこれで全部さばけた。

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