第5話

「きたねえよ」


「なにが?」


 帰り道、荒稼ぎしてドヤってる馬鹿に俺は苦言を呈した。


「アビリティ使って確率いじってんじゃねえか」


「だから?」


 確率変動。おそらく、世界中でこいつだけが使えるアビリティだ。神様の寵愛を受けたこいつは、あらゆる確率が収束する瞬間に干渉し操作できる。


「自分の能力使って金稼いで何が悪い」


 俺も割とからめ手で稼いだが、これはいくらなんでも……しかし不正ではない。よしんばこのアビリティをあの場で公表したとしても、それを証明できる術はない。しょせん確率など、人知のおよばぬ、まさに神のみぞ知る領域なのだから。


「まさかこれまで全勝か?」


「アーシが負けるわけねーじゃん」


 うがぁ。

 

 俺は頭を抱える。


「いったん負けろ」


「なんで」


「あのままだと出禁食らうぞ」


「ズルしてるわけじゃねえのに」


「空気を読め。あれじゃでっち上げでもなんでも店側が排除する。目立ちすぎだ」


「人間ってホントわかんねー」


 頭で腕を組んでぼやくギャル。


「短期で後腐れなく荒稼ぎするならそれでもいいけど、長い目で見ればちょいちょい負けた方がいいんだよ。それこそ店すっからかんにしたら潰れるだけだろうが」


「それもそうか」


 馬鹿はようやく理解したらしい。


「それと、金は全部あのカジノに預けてるんだな」


「持ち運ぶのメンドーだしな」


「それもやめろ」


「あ?」


「店が潰れたら引き出せなくなるし、出禁じゃなくてもその貯蓄に細工をされる危険だってあるからな」


「で、どうしろと」


 リスクマネジメントってやつだ。金は一か所に固めず散らしておいた方がいい。


 その方法は、


「俺の持ってるギルドの一つを貸してやる。その倉庫を使え」


「アータってギルマスやってんの?」


「おう。ちょうどいいから俺の稼ぎも見せてやる」


 行きは通り過ぎた冒険家協同組合事務局に立ち寄る。俺の担当受付嬢は多忙らしくいなかったので、そのままギルド区画へ直行した。



 冒険家協同組合事務局は冒険家関連の設備はもちろんのこと、冒険家が組織したギルドの施設も管理している。ギルドには一室が与えられ、倉庫も割り当てられる。


 〈ナラガ〉


 現在、俺が在籍しているギルドである。このギルドが所有する倉庫に、俺がかき集めたアイテムやら金やらが蓄えられているわけだ。


「ああ、すまんね」

 中に入ると備品係のオッサンが挨拶した。

「所有権移転は終わったんだが、現物はまだ区分できてなくてね」

「お気になさらず。気が向いたときでいいっすよ」

「げっ」

 後ろから不細工な声がした。


 ミツルが驚くのも無理はない。書類上ではたしかに扱ったが、俺も目の前で実際に見たときはたまげた。


 競泳用のプール。


 広さはそれくらいだ。


 ここから一番奥にうず高く積まれたアイテムの山があり、その裾野の位置に分けられたアイテムが箱に納まっている。分別はまだ全体の百分の一にも達していないだろう。


「お金については最優先で集めたから、全部使えるよ」


 備品係の指先を目で追い、少し離れた場所にみっちり詰まった袋が何個も積まれている。あれが現金袋だろう。


「何個かプレゼントしましょうか?」


「いや遠慮しておくよ」


 俺の申し出にオッサンは苦笑した。


「受け取ったら働くのが馬鹿らしくなる」


「そうですか。…………んで、だ」


 職務に戻る備品係から、後ろでフリーズしてるギャルへ向く。


「こういう倉庫が一ギルドに一つあるから、そこを使え」


「いやいや、待てや」


 再起動したミツルは、


「なに? 犯罪?」


「合法的に手に入れたぞ」


 正直もらいすぎた感は俺もあるが、かといって塩漬けのままってのももったいないし、もらえるものはもらっておいて損はないわけで。


 結局、昼間は俺がいかにしてギルドで儲けたかを頭の軽いギャルに根気強く説明しつつ、ギャルの資産を分散させるだけで終わってしまった。

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