第3話

「なにこれ」

「だって初日とそれ以降全部一緒だし」

 呆れ顔のミツルに俺は片手をプラプラさせる。


「ちゃんと観察したぞ」

 俺はそばで日向ぼっこしてるロミーネの顎に指をはわせてうりうりする。「ふす……ふす……」といった声が△の口から漏れた。ちなみに寝てるところにこれをやると不機嫌そうにどっか行ってしまうので注意が必要だ。


「それにそろそろ俺も外出の機会が増えるしな。もう限界だ」

「アータ就職したの?」

「してない。が、まあまあ稼いだ」

「あっそ」

 興味なさげに流された。結構すごいことしたと思うんだが、主観的に。もうサクッと一生分稼いだぞ多分。


「そういうお前こそ普段なにやってんだよ」

「あ?」

「人に稼げだの働けだの言ってるやつが自分は遊びほうけてるなんて言わねえよな」

 どうせ打ちっぱなしなんだろ。愛用の五番アイアンで球ひっぱたいて遊んでるんだろ。


 するとこのギャルも思うところあったのか、心外だとでも言うような顔をした。

「アーシだって銭稼ぎはきっちりやってるし」

「お前みたいなの誰が雇ってくれるって言うんだよ。あれか? エン」

「ちげえよ!」

 まあそっちも需要ねえわな、と俺も納得したりする。


「そんなに見たきゃ見せてやるよ」

「見せて」

 どうやら今日はこいつの稼業を知れるらしい。そこでふと、俺は思った。このままロミーネを置き去りにして家を出てもいいものか。うーん、心配だ。こんな小さな子が留守番してるところに怪しげなおじさんがやってきて……


 そこでロミーネはカッと目を開き、すごいスピードで森に突っ込んだ。すんごい運動神経。俺でなくても見逃しちゃうね。


「あいつ今どこいった」

「アーシがわかるわけないでしょ」

 俺が探しに行こうか悩んでいると、遠くで何かが光った。なんか発光というか、発火っぽかった。


 ややあって、ロミーネが茂みから出てきた。そのちっちゃな手で何かを引きずっている。


 ぽいっ。


 縁側にいた俺たちの前に少女が放り出したものは、なんか焦げてるおっさんだった。なんか忍者っぽい格好してる。


 し、死んでる……


「う、うぅ……」


 あ、生きてた。


「とりあえず……」


 俺はスコップを取り出す。


「埋めるか」


「オイコラ」


 ミツルに止められ、しかたなく介抱する。といっても、回復魔法を使えるやつもいないし回復アイテムもないから、水かけて水飲ませるだけだが。



「降参。死にたくない。よって助命希望」

「あ、はい」

 完全に心が折れたのか、その後べらべら喋り出した。名をヒガン。依頼人は殺されることになっても教えられないが、そいつの依頼で俺たちを探りに来たらしい。そこで敷地内の森(厳密にはこの家は街外れの森に隠れるように建てただけで、森全体が敷地というわけではない)に潜入したところ、ロミーネに速攻で排除されたと。



「どうすんのこいつ」


「まあ反省してるみたいだし……」


 変に始末するとまた誰か来そうだし、ここは見せしめ的な意味で返してやった方がよさげだ。


「とりあえず俺たちに今後いらんことしないと誓うこと。あと誰かが似たようなことしようとしたとき止めること。神に誓ってできる?」


「《神に誓って》了承」


「じゃあもういいよ」


「感謝感激雨霰」


 そう言い残し、香ばしい残り香で去っていく男。多分あれ、アサシンとかしのびとか、そういう職業なんだろうな。回避高くて隠密特化の。



「これなら留守も安心だな」


 とりあえず俺は縁側まで戻ってきたロミーネを見る。


「番犬、みたいな?」


「そういうこと」


 ミツルにうなずき、俺はそこはかとなくドヤ顔してるロミーネの顔を撫でまわす。「ふすふす」鼻から息をもらし、少女はただでさえ眠そうな目をさらに細めた。おーよしよし。

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