第79話 いつも笑っている子

 いつも笑っている子がいた。

 誰から、何を言われても笑っている。



「ばかだなあ、お前は」

 にこにこにこ


「お前なんか、産むんじゃなかった」

 にこにこにこにこ


「本当にとろくさいわね。あっち行ってなさい、邪魔だから」

 にこにこにこにこにこ



 彼の体は傷だらけだったが、誰から、何を訊かれても、笑っているばかり。


 それはね、赤ちゃんの頃から彼を、お母さんが、ぶつとき、蹴るとき、踏みつけるとき、つねるとき、腕をねじあげるとき、「今日は、ご飯抜きよ!」と言うとき、いつもにこにこ、げらげら、大きな口を開けて、笑っていたから。


 そんな彼でも、ついに笑うのをやめるときが来た。

 お母さんが、晩御飯を食べた後に


「うっ」


 と胸を押さえて倒れ、救急車で運ばれたがそのまま亡くなったのだ。


 動かなくなったお母さんを見て、彼は初めて、泣いた。


 泣いて

 泣いて

 泣いて


 何日も泣き明かした。


 だって、こんなに嬉しいことは、今まで一度もなかったんだもの。


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