第56話 優しい世界:年の瀬の一コマ

※誰かに親切にすると、親切にされた人が死んでしまう世界です。



 ふざけんなよ、って感じ。好き放題な生き方して、国に生活の面倒みてもらおうとか、狡くない? 私らが払った税金だよ、それ。こっちはさあ、老後のこととか考えて、ちまちま蓄えてるわけ。アリとキリギリスの話、知ってるよね? なんであんたの生活を私らの血税で保護してあげないとといけないの? おかしいと思うよね?


 ホームレスになれば? そりゃ寒いでしょうよ、十二月だもん。年の瀬に殺生なって、あんたみたいな連中の相手をさせられてんの、こっちは。年の瀬に。胸糞悪いわー。勝手に凍えてたらいいのに。灯油代がない、って甘えないでよ。節約のために厚着して自分の部屋で震えて耐えてる人とかいるわけ。その人たちは、あなたと違って国民の血税をあてにしたりしないの。わかる?


 いやいやいやいや、三日間食べてませんって、知らないから、そんなの。その辺の生ごみでも漁ったら? 


 失業? はあ? それって、あなたの能力が足りなかったから、会社に不要な人間って判断されたんでしょう? 


 倒産? え、そうならないために、必死でいい大学入って、大企業に就職したり公務員になったりするものでしょ、普通。ロクに努力もしないでさあ、貰うの、国からお金。血税なんだけど。貰いたいの? 申し訳ないって思わない?


 ないわー。ほんと、マジで切れそうだわ。あのさあ、まずは自助でしょ。それが無理なら共助。自分で何とかできないなら、家族とか親戚とか頼るのが筋で。


 ええ? 不景気? 一族全員しみったれてんだ。超ウケる。似た者同士っていうかさあ、バカはもう子供産まないでよ。ねえ。無能なバカの遺伝子受け継いだバカとか要らないから。迷惑なんだわ。なんで真面目に頑張ってる我々が、あんたたちのためにさあ。血税。け・つ・ぜ・い・だからね、何度も言うけど。


 えー嘘でしょう? まだ言う? 保護保護言うの。ねえ。まだ国から生活の保護を受けようって思ってるんですか、あなた。


 はああああああ


 あったまいたーいわ、もう。いや勘弁して、ほんと。いやいやいや、用紙をくださいって、ちょっと。これだけ言ってるのに、ねえ、申請するんだ? え、バカにしてる? 私のこと、バカにしてるの、ねえ。


 この制度、本当に困ってる人のためのものなんだけど。ねえ。本当に、全部の可能性を検討してみたわけ? 車は売った? 自宅は? 高校生の娘がいる? ねえ、高校生にもなればさあ、家族のために働けるじゃん、十分。高額稼げる仕事もあるじゃんね。いやいやいや、高校ぐらい卒業させたいって、血税をたかりに来た人間が何言ってんの? 勘弁できないって。


 はああああ、もう。ちょっとお。完全にモンカスじゃんね。モンスター・カスタマー。ハラスメントだわ。ねえ、マジで言ってんの? 申請させろって? これだけ親切丁寧に説明したのに?


 はあああああああ……



※誰かに親切にすると、親切にされた人が死んでしまう世界です。

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