第8話 シャム
その双子の姉妹は、頭のところでくっついていた。向かって左がミミ、右がココ。年齢は勿論同じで、もうじき十二歳になる。
二人は、非常に仲が悪かった。四六時中喧嘩ばかりしており、ちょっと目を離すと相手をひっかいたり髪の毛を毟ったり、可能であれば噛みつきもしただろう。だが二人は横並びで相手の方に首を横に傾げた形で側頭部が繋がっていたため、噛みつくことはおろか、直接お互いの顔を合わせて見つめ合うこともできなかった。
それでも二人は、身長や髪の色、目や口の形に鼻の高さ等、身体的特徴は非常によく似ていた。いわゆる一卵性双生児というやつだ。
しかし性格は、服の好みから好きな食べ物、趣味、お風呂でまず体のどこから洗い始めるかに至るまで、二人はまったく異なっていた。ミミは運動が大好きで友達も多く、休日にはキャンプや遊園地等、いつでも外に行きたがったのに対し、ココは読書好きで室内で絵を描いたりピアノを弾いたりするのが好きな内向的な娘だった。勉強が得意なのはココで、おしゃれに敏感で、そのファッションセンスに定評があるのはミミ。元の顔やスタイルは同じなのに、ミミは同学年の女子の羨望の的になるほど自らの魅力を百二十パーセント発揮できるのに対し、ココは髪型から靴下の柄までまるっきりあか抜けず、おどおどしていて、クラスの男子から告白されたこともない。
この二人に共通しているのは、お互いを嫌い憎んでいるということぐらいだった。
「ミミったら、私のテストの回答を見たでしょ!」
「ココだって私のリップクリームを勝手に使ったじゃないの!」
「あのピンクのトップを貸してくれなかったくせに!」
「あんたなんかに、あの色は絶対に似合わないから!」
そんな風に今日も取っ組み合いの喧嘩を始めた二人に、ママは溜息をついて言う。
「どうしてあなた達は、そんなに仲が悪いのかしら」
「こんな頭の悪い子と一緒に居たくないからよ! バカがうつったらどうしてくれるの?」とココ。
「そっちこそ、あんたのダサさがうつったらモテなくなっちゃう!」とミミ。
「いい加減にしなさい!」
ついにママの雷が落ちた。
ふてくされたミミは外に散歩に行きたがったが、ココは家で古い映画のビデオを見たがった。また喧嘩が再燃しそうになったが、まず一時間散歩してから家でおやつを食べながらビデオを見るようにママが厳しく命令したので、二人はふてくされ顔で、お互い可能な範囲でそっぽを向きながら出て行った。普段はパッと見の印象がまるで違うため、ちっとも双子らしく見えない二人だが、子供らしくむくれた顔は、やはりよく似ていた。
「本当に不思議だわ」
キッチンの窓から、裏庭を通過していく個性の全く異なる娘たちの後ろ姿を見送りながら、ママは呟く。
「一卵性の双子で、しかも、一つしかない脳を共有してるっていうのに」
ママは大きな溜息をついて、二人が散歩から戻って来た時のために、おやつの準備を始めた。
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