第3話 雪だるま注意報

 それでは、天気予報です。


 本日は西高東低の気圧配置で強い寒気が流れ込み、日中は曇りですが、夕方から雪になり、時々雪だるまが降りそうです。特に花の宮エリアでは、突発的な集中豪だるまが予想されます。ご注意ください。


* * * * * *


「いやねえ、まったく。これも気候変動のせいかしら」とマユミはキッチンの窓から外を覗いた。冬の日は短く、既に夜の気配が漂っている。


 狭い庭には、三日前に降った雪だるまが潰れひしゃげて積みあげてあった。夫と息子による「だるますかし」の重労働の跡がまだ融けずに残っているのに、今度は集中豪だるまだという。


 息子には夕方から天候が崩れるらしいから早く帰るように言ってあった。今日は部活もないし、もうじき帰ってくるはずだ。問題は夫だが――


 スマホがぶーんと震え、メッセージが届いたことを知らせた。夫からだった。


「今日は夕方から豪だるまだそうだから、会社の近くのホテルに泊まります。そっちは大丈夫?」


「シゲルはじきに帰ってくるはず。今日はもう外には出ません。あなたも気をつけて」


 メッセージを返信して、マユミは時計を見た。十六時に近い。外が暗くなるにつれ、気温がぐんぐん下がり、灰色の空から雪が舞い始めていた。夕飯の支度を始めるためにエプロンの紐を後ろ手で縛りながら、もう少し待って帰って来なかったらシゲルに電話をかけようと思った。


 過保護だ、と夫に笑われるかもしれないが、実際に空から降って来た雪だるまに押し潰されて人が亡くなる不幸な事故は、毎年必ず起きる。つい最近も、雪が降ってきたことに興奮して自宅から走り出た幼い子供が雪だるまの直撃を受けて……という痛ましいニュースがあった。用心するに越したことはないのだ。


 ピンポーンと呼び鈴が鳴った。そういえば、近頃は色々物騒なので玄関に鍵をかけていたことを思いだし、マユミは玄関へ急いだ。


「心配してたのよ、シゲル。一体何を」


 ロックとチェーンを外し、ドアを開けたマユミは、短い悲鳴を上げた。


「おい、声を出すな。命が惜しかったらな」


 腕の代わりにシャベルや箒を生やし、赤や青のバケツを頭に被った雪だるま達が、無表情な黒い目をマユミに向けて立っていた。


 集中豪だるまならぬ、ゲリラだるまだった。



************************

【だるますかし】車路や歩道などに降り積もり、人々の日常生活を脅かす雪だるまを除去すること。豪だるま地帯では、屋根に積もった大量の雪だるまを除去する「だるま落とし」も必須である。そのまま放置していると、だるまの重みで家が潰れることがある。

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