第23話 信じられない話

カップの中の魔法回復に効果のある薬液を飲み干して、ジュリアンは多少顔色が戻ったようだ。

相変わらず、やつれても雄々しい顔を歪めて大きく息をつくと、上を向き片手で顔を覆った。


「ああ、シンを失うかと思った…。自分でも思ってなかったよ、こんなに動揺するとはな…。」



珍しく弱音を吐くジュリアンを眺めながら、私は興味深く昔からの親友を眺めた。


学生の頃からほとんど感情を出すことをしないジュリアンは、他人にも、下手すれば自分自身にさえ執着を見せなかった。

もっとも、何をするにも苦も無く出来るこの男にとっては、他人からの称賛や羨望はかえって煩わしいものだったかもしれない。



「珍しいな。お前がそこまで他人に振り回されるのは。私からしてみれば、ちょっと信じられないよ。」


私がそう揶揄うと、ジュリアンは苦笑した後真っ直ぐこちらを向いた。


「まぁそう思われても仕方ない。事実自分でも驚いてるくらいだ。

シンが私の前に現れてから、私は…、何というか生きているというか、自分の感情に驚かせられている。」


「…お前がシンを大事に思ってるのはよく分かったよ。


ところでさっき言ってたシンが別の世界の人間だという話を聞かせてくれ。」



ジュリアンから聞いたシンの話は驚愕すべきものだった。

別の世界から急に現れるなんて聞いた事がないが、シンを彩るこの外見もまた私の知る限りでは他国にも覚えが無かった。


「確かにこの黒髪に、黒い目?はどの国にも覚えがないな。…本当に人間なのか?魔法も無い国なんて…。」


ジュリアンはこちらを軽く睨むと言った。


「シンの世界では、シンの国はほとんど同じ様な見かけらしい。我々の様な外見の国もある様だが。人間には違いない。


シンはそこら辺の貴族よりも貴族らしい教養と振る舞いが出来る。ただし、常識が違うので、少々困った事を引き起こしたりするが。」



ジュリアンは眉間に皺を寄せつつも口元は柔らかく緩んで、目は眠り続けるシンの顔に注がれていた。


急に真面目な顔でこちらを見据えると、ジュリアンは口を開いた。


「シンはこの世界には無い力があるようだ。先刻はそれを使い過ぎて倒れた。…目が覚めたらどうなってるかは判らぬが。

この事はもう砦中に広まってしまっただろう。


それに先ほどの白い光。色々検証しなければならない事はある。今は無理だが。

近いうちに団長達がもどってくる。我々はシンの扱いを間違えないようにしなければ…。


また今日のような事を繰り返しては私の心臓も耐えられない。


…シンが死ぬかと思って、心臓が止まりそうだった。」



目の前の男はそんな甘い言葉を言いながらシンの手を優しく握った。



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