第21話 矢の力の代償

生き生きと馬場を駆け回り、次々と矢を射掛けるシンの姿はその場に居る者たちを釘付けにしていた。


シンが矢を射掛ける度に、少しづつ矢の周りにきらめく色が見えるようになっていった。

時には赤く、時には紫に。最初は仄かな色味だったものも、段々とハッキリと色が見える。


あの色の違いは何なのか後でシンに聞いてみようと、シンの顔に目を移した時にそれに気づいた。



さっきまで輝いていたシンの顔の表情が、ぼんやりとしていた。


私は咄嗟に馬を駆けて、間に合ってくれと心臓の鼓動を感じながら、シンの名を叫びながら手を伸ばした。

フーガから崩れ落ちていくシンの姿に、私はほとんど使えない滞空の魔法をかけていたのかもしれない。


辛うじて私の指先に触れたシンの背中の鎖帷子をぐいっと掴んで、私の馬上に引き上げた。


意識を失ったシンの身体はぐったりとしていて、私は心臓の鼓動がどんどん速くなるのを感じた。



「兵士長っ!私の幕に医務官を呼べ!魔力切れだ!」


私は命令を下すと馬を降り、シンを抱き上げて走った。


私の心臓が緊張と身体の負荷で張り裂ける前に幕前に待っていた兵士長達と、ルカ医務官と合流した。

私は兵士長に待機を命じると、ルカと一緒にシンを私のベッドに寝かせた。



「兵士長に魔力切れと聞いたが本当なのか⁉︎ ここ何年もそんな症例は聞いた事がない。」


ルカは緊張した顔でシンを診察し始めた。


私はシンのひんやりとした手を握りながら呟いた。



「…シンはこの世界の人間ではない。最初は魔法も使えなかった。日常的な魔法は少しずつ使える様になっていたが…。


今日、シンだけに使えるこの世界のものでない力を使う訓練をしていた。

急激な力の行使で、シンの元々多くない魔力が枯渇したのかもしれない。…ただ、これも推測に過ぎない。」



「…呼吸が弱くなっている。魔力残量は少ないが枯渇はしていない。が、何かが循環を妨げているようだ…。

今すぐ命がどうなる事は無いだろうが、危険な状態なのは間違いない。


彼はジュリアンの従騎士なんだろう?噂の彼にこんな形で会いたくはなかったけどね…。


彼の生い立ちの詳しい話は後で聞かせてもらうとして、私の提案する効果の有りそうな治療は魔力循環だ。」



私はルカの厳しい顔を見て、覚悟を決めた。


「私がやろう。」













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