第2話

 犯人は、うちの中にいる。絶対いる。


 ぼくのうちはオートロックマンションで、建物に入るにはエントランスのドアを突破しなきゃならない。それには住人の持っている鍵を使うか、専用のインターホンに部屋番号を打ち込んで中の人に開けてもらうかの二択。もし怪しい人が忍び込もうとしたら、管理人さんが声かけをしたり、止めてくれるシステムだ。


 ということは、泥棒がマンションに侵入することは滅多にない。


 じゃあマンションの住人の誰かなんじゃないの? 

 そんな考えが浮かぶかもしれない。でも、それは難しいんだ。


「昨日の夜って鍵閉めたよね?」


 ぼくはリビングのド真ん中で、たぷたぷ腹を掻きながら帰ってきた父さんに尋ねる。父さんはうなずき、「俺のナイトルーティーンだからな」と謎のドヤ顔をかました。ちなみに、ナイトルーティーンって言葉は最近の父さんのマイブームである。


 父さんが毎晩戸締り確認をするのは、0時ピッタリ。その時間に、2つ付いている鍵がロックされているかを毎回触って確かめるのだ。となると、0時から父さんがウォーキングに行く時間までは鍵がかかっていることになる。いわゆる密室な訳だ。


 犯人は外ではなく、うちにいる可能性がとても高い。


 母さんは11時になったらすぐに寝ちゃって朝までぐっすりだから、両親以外の家族を一人ずつ潰していくのがいいのかな。


 家族を疑いたくはないけど誰が怪しいだろうか……とソファに座って考えている。母さんは諦めたのか自己責任だからと思っているのか、もう何も言わずに洗い物をしている。父さんは「遅刻しないように間に合わせろよ、探偵さん」と言い残し、自分の部屋へ移動。姉ちゃんもタクミも自分の部屋にいるっぽい。じいちゃんはダイニングにポツリ。まあ、いつものことだ。

 

「にぃちゃん」

 

 突然、真横から呼ばれる。

「タッくん、昨日ねぇちゃんがお外に出るの見たよ」

 タクミ、いたのか。全っ然気がつかなかった。座敷童子かよ。


 しかもまさかの発言。ファインプレーだ、きゅるるんフェイスのタクミくん。


「夜中にのどがかわいて起きちゃってさ。お水を飲んでたら、急に廊下が明るくなったんだよ。なんだろーって思ってリビングからのぞいたら、ねぇちゃんがいたんだ」


 おお、有益情報だ。


「うんうん、それで? そのあとは?」

「なんか、くつを箱にしまって、袋みたいなやつに入れてた。それを持って外に行っちゃった」


 なんだそれ、まじかよ。


 タクミが言うに、姉ちゃんは家を出た時にちゃんと鍵を閉めたらしい。だから開けっぱなしで外から誰かが……ということはなさそうだ。


 ということは、姉ちゃんで犯人確定じゃん。


 それにしても、どうして姉ちゃんはぼくのスニーカーを持って出かけたんだ?

 嫌がらせか?


 動機がまったくわからない。姉ちゃんお気に入りのゼリーとかプリンは勝手に食べてないしなぁ。考えても思いつかない。


ああ、もうぐちゃぐちゃ考えるのはやめよう。とにかく姉ちゃんに聞くのが早い。


「それとね、にぃちゃん……」と、タクミが何か言いたそうな様子。


「にいちゃんが考えごとしてる時の顔、いつもよりブス」


 ぼくの弟、容赦ないな。まあ、きゅるるんだから許してやろう。

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