結末

「─ 英里華ちゃん」


 自分の頬をつついていた香奈さんの指が止まりました。


「番号さえなければ問題ないんだよね?」


「まあ、見比べられて『偽物!』な事態は避けられると思う」


「私の500円硬貨には、番号なんか なーいーー」


「ああ」


「これから、本物と寸分違わない複製を作ってもらえば、良くない?」


 香奈さんの手が、自分に向けられた英里華さんの指を握ります。


「1億円分だと…500円玉を20万枚かぁ」


「10万枚でも20万枚でも、同じ様なものじゃない」


「金属は、紙より重いんだよ?


 500円硬化1枚で7gだから…20万枚だと1.4トンになる」


「この家の床、抜けちゃうねぇ」


「この際、1億円は諦めるかぁ」


 英里華さんの抗議の声を阻止する様に、香奈さんは言葉発しました。


「どうせあぶく銭だし、1000万円で手を打とう」


「えー」


「2万枚なら140kgぐらいで済むし」


「─ 英里華ちゃんの体重と同じだね」


「このスレンダーな私の体重が 3桁ある様に見える?」


「ああ。99kgは超えてなかったっけ」


「…ちょっと、用を思い出した」


「うん、ごめん。冗談が過ぎました! だから、台所に 包丁を取りに行かないでぇ!!」


----------


「これの複製を お願い」


 魔物の前のカップを脇に避けた英里華さん。


 ちゃぶ台の上に、硬貨を1枚置きました。


「2万枚にして」


「私の500円硬貨♪」


 身を乗り出すふたりの顔を、魔物は順番に見ます。


「お安い御用だが…


 大して価値がなさそうな、こんな銀貨もどき……


 その程度の数 複製しても、大した富にはならないのでは?」


 色々と言葉を飲み込んで、香奈さんと英里華さんが声を揃えます。


「「─ 私達は、無欲なのよ。」」

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ちゃぶ台と羊皮紙と魔法陣 紀之介 @otnknsk

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