懸念

「この…際 仕方ないから……」


 香奈さんは手を突き出しました。


「─ 英里華ちゃんの千円札を、複製してもらおう♪」


「500円硬貨しか手元にない人間が、イニシアチブを取るな」


「えー」


 英里華さんが、目の前に出された手を軽く叩きます。


「…10万枚ぐらい、複製して貰うか」


「おいくら万円?」


「1億円」


「おー」


----------


「…まてよ」


 口の前で、右手の人差し指を立てる英里華さん。


「……1枚の札から大量に複製するのは、不味い気がする」


「?」


 指を、唇に当てます。


「札には、番号が入ってるから」


「─ 同じ札を複製したら、全部同じ番号だねぇ」


「1度に複数枚使ったら、どうなる?」


「ふと、番号を比べられたら…通貨偽造犯で捕まるかも……」


----------


「じゃあ、複製元の札を 沢山準備しよう!」


 香奈さんが、目の前の英里華さんの右の手首を掴みます。  


「100枚とか!!」


「あんたにアテがあるなら、お願い」


「近所に、夜中にお金貸してくれる知り合いは いないなぁ」


「まあ…自宅に、千円の札束を置いてる人が まずいないとは思うけどね」


「別に、千円札じゃなくても!」


「100万円の札束を自宅に置いていて、それを気軽に貸してくれる知り合いがいる訳?」


「─ いない」


「せめて、24時間のATMが近所にあれば…万札10枚ぐらいなら……」


「ええー 英里華ちゃんは、口座に預金残高がある人なの?」


「まあ…ないんだけどね。」

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