対価

「まあ、理由の如何を問わず」


 気を取り直した魔物が、顔をあげます。


「貴殿らが、我を召喚したのは事実には…当然 報いが発生する」


 英里華さんの表情が変わりました。


「─ 私達に、魂でも寄越せって言いたい訳?」


「お顔が怖いー」


「我も、同意する」


 香奈さんのほっぺを抓る英里華さんに睨まれ、魔物が姿勢を正します。


「…これは失敬」


「で、何が欲しい訳?」


「……逆だ。貴殿らの骨折りに、対価を払いたい。


 先程も申した様に、召喚は、我にとっては利だからな。


 払われた労力に報いるのが、魔の道理だ」


 予想外の展開に、顔を見合わせるふたり。


 魔物は、残りのコーヒーを飲み干しました。


 空っぽになったカップをテーブルに戻してから、英里華さんを見ます。


「不要であるなら、無理強いはしないが?」


「いや、貰えるものは、貰うけど」


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「で──」


 英里華さんは、立てた人差し指で 自分の唇を叩きました。


「…何が貰える訳?」


「例えば、金銀財宝では どうだろう?」


「香奈ちゃん、それ好き♪」


「まあ、それで良いか」


 ふたりの視線を魔物が受けます。


「─ 承知した」


「お・ね・が・い」


「── では、元を出して頂きたい」


「は?!」


「それがないと、複製が出来ないからな」


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「チャチャチャっと魔力で、宝石とか金の延べ棒とか 出せないの?」


 英里華さんの質問に魔物は顔を顰めました。


「無から有を生じさせるには…強力な魔力が必要なのだ」


「─ つまり、あんたレベルでは無理な訳ね」


 香奈さんが、英里華さんの脇を肘で突きます。


「我さんをいじめたら、だ・め」


「── 別に私、いじめてないし」


「でもぁお」


「はい、そこの魔物。あんたも、いちいち す・ね・な・い!」


----------


「元ねぇ」


 英里華さんの呟きに、魔物は答えました。


「それさえアレば、寸分変わらない複製が作れる。因みに量は望みのままだ」


「英里華ちゃん、金の延べ棒とか宝石とか持ってないの?」


「持ってたら、こんな所に住んでないし、こんな生活もしてない」


「ちなみに我さんは、いつまでこちらにいられるの?」


「夜が明けるまでだな」


「あと、数時間弱かぁ」


「香奈、それまでに、複製出来る 高価なブツを何とかするよ。」


「うん」


「魔物は…それまで ここで待ってくれるのよね?」


「それは構わぬが…出来ればコーヒーのおかわりを……」

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