要件

「Irohani Oedochiri Nuruwo」


 香奈さんの呪文を唱える声が、部屋に響きました。


「Wagayod Arezotunena Ramu」


 魔方陣の周囲の空間が歪みます。


「我を召喚したのは、貴殿か?」


 顔だけを出した魔物に、香奈さんは手を上げました。


「そうでーす」


「─ 要件を賜わろう」


「特に、ありませーん」


「── では、何故 我を召喚した?」


「魔方陣を試したかったから でーす」


「その様な理由で…我を……」


 場に走る緊張。


 魔物は、召喚した香奈さんと、その背後に座って儀式を見守っていた英里華さんの顔を、順番に見ました。


 暫くすると、その口元が緩みます。


「良く召喚してくれた」


「「は?!」」


----------


「魔界の序列には──」


 完全に姿を表し ちゃぶ台の前に座った魔物は、出されたコーヒーに手を伸ばしました。


「…人界に召喚された回数も関係するのだ」


 その場の全員にカップを出し終えた英里華さんが、香奈さんの横に座ります。


「へー」


「単に多ければ良いと言う訳ではないが…少ないのは評価されない」


 香奈さんは、自分のコーヒーに 5杯目の砂糖を投入しました。


「そう言うものなんだぁ」


「不本意ながら我は…人界への召喚回数が少なくてなぁ……」


「うん、確かにそんな感じ☆」


「こら、香奈!」


 急いで、場を取り繕う英里華さん。


「召喚も、魔物を見るのも初めてな人間が、知った様な事を言わないの」


「でもぉ」


「はい。そこの魔物、こんな小娘の言葉で お・ち・こ・ま・な・い。」

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