第56話 天使のタリスマン
天使のタリスマン。全然知らない単語が出てきたけど、それがファンゲイルの目的、つまり王国を滅ぼそうとする理由なのか。
秘宝というけれど、魔王ほどの存在が何年もこの国に固執し、さらには軍を率いて攻めるほど価値のあるものなのだろうか。
「それを渡せば軍を引き上げるのだな!?」
「うーん、僕この国嫌いなんだよね。タリスマンを
うーん、傍から聞いているだけではどうにも要領を得ないね。
一つ分かったことは、彼が王子の行動に関わらず攻撃をやめる気がないということだ。私にとって、それだけ分かれば十分。
「シャイニングレイ」
聖属性と炎熱、二つの要素を持つホーリーレイをファンゲイルに向かって飛ばす。王子と向き合っていた彼に対し完全に背後から撃ったつもりなんだけど、いつの間にか貼られていた結界に阻まれ、ジュッと音を立てた。いや、よく見ると氷の膜がファンゲイルを守るように煌めいている。
そういえば砦から逃げる時も氷の魔法かスキルで追撃されたね。
「なんのつもりかな? この王子には君も恨みがあるんじゃないの、聖女ちゃん」
「正直王子はどうでもいいんだけど……この国は私の故郷なの。守りたい人も、物も、私の両手じゃ抱えきれないくらいある。それは死んでも譲れないものなんだよ」
「へぇ、だから矮小なゴーストから進化してまで戻って来たんだ。そして、敵わない相手にも立ち向かうと」
「そうだよ。あとね、今の私はもう聖女じゃないの」
私の足元から、ふわーっと霧のように魔力を放出して、霊域で空間を満たす。同時に聖結界で中庭を囲った。戦う気のない騎士なんて邪魔なだけだもん。
結界の中で、私とファンゲイル、骨ドラゴン、そして王子だけが取り残される形になった。
右手に魔力を籠め、ファンゲイルに向ける。
「今は聖霊だよ! シャイニングレイ!」
「アイシクルショット」
熱量を帯びた光線と、ファンゲイルが放った氷の弾丸が衝突した。
破裂音がして、白い蒸気が視界を遮った。
「いいぞ、聖女! 魔王を倒すのだ」
腰が抜けて立てないくせに、まだ偉そうだ。私は王子を無視して――否、反応する余裕すらなかった。
間髪入れず再び氷の弾丸が飛んできたからだ。拳大の氷塊は闇魔力を纏い、物理的にも魔法的にも必殺の威力を持って私を襲う。
「ポルターガイストっ」
霊域の中でなら、どれだけ早い速度で動こうと正確に把握し、掴むことができる。
闇魔力の塊で挟み込むように氷塊を掴み、勢いを殺す。きゅるきゅると氷塊が軋む。最初こそ拮抗していたものの、弾丸を完全に止めることに成功した。
「ガタ、ガタ」
「――っ! 聖結界!」
背後から骨ドラゴンが腕を叩きつけてきた。大きな翼を持ち、四足歩行も可能な立派な手足は骨だけになった今でも相当な重量を誇る。ただ振り下ろすだけでも威力、速度ともに申し分ない攻撃になる。
そして、もはや当たり前のように魔力を纏っている。というより、攻撃する部位の骨が黒く染まり、魔力が内包されているようだ。その密度はゴズメズよりも高く見えた。おそらくはAランクの魔物。
「やっぱ強い!」
聖結界とポルターガイストでなんとか腕を食い止めると、大きさ故に隙だらけの内側へ潜り込み、すかすかのあばら骨の隙間に手を向けた。
「破邪結界、ソウルドレイン――」
結界とは名ばかりの、魂を破壊する力場の塊。
聖属性の魔力も含んでいるからアンデットにはかなり有効なはずだ。
「破魂結界ッ!」
「ソウルプロテクト」
手の平から打ち出されたヒトダマを思わせる白い球は、骨ドラゴンにダメージを与えることはなくかき消された。骨ドラゴンが身を捩り暴れるので、なんとかその場を離れた。
「ふふ、僕の前で魂干渉の魔法なんて使わせるわけないじゃないか。魂と氷は僕の専門なんだ」
近接戦闘に長ける、巨体を持つ骨ドラゴン。魔法を得意とする魔王。
同時に相手取るのは、思ったよりも骨が折れそうだ。
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