第45話 合流
ゴズに追われて派手に移動したから、ちょっと街道から離れちゃった。
私はレイニーさんたちと別れて、アレンの元に急ぐ。あの少年、お母さんにちゃんと薬草渡せるといいな。
(って、人のことを気にしてる場合じゃないよね!)
聖域や破邪結界を惜しみなく使ったから、私の魔力も残り少ない。ゴズがかなりの強敵だったから仕方ないのだけど、軍勢と戦い抜く余力はない。
(早く進化しないと)
焦燥ばかりが募る。結局ゴズを倒したのはレイニーさんだったから、レベルが上がらなかったのだ。レイスのままでは魔力が足りないし、メズを倒すことはできまい。
障害物をすり抜けながら雑木林を進み、街道に出た。視界が一気に開ける。
すっかり真上まで昇った太陽の光にすぐ目が慣れると、街道の様子が目に飛び込んできた。
(もう始まってる!)
私が出た場所は、ちょうど両軍の間に位置していた。本格的な開戦はまだのようだけど、各所で小競り合いが行われている。
総数は人間の方が圧倒的に少ない。それでも、動きが遅いというアンデットの弱点をついて上手く立ち回っているようだった。見たところ、目立つケガ人はいない。
(アレンを探さなきゃ)
骨が擦れる音、金属が打ち付けられる音、兵士たちの怒声……様々な戦闘音が響く戦場をくぐり抜けながらアレンの姿を探す。
今回は冒険者が多いね。彼らは魔物退治のプロだから、アンデットの対処も心得ているはず。ギフト持ちで魔法を使える人も多くいて、破竹の勢いでスケルトンを倒している。
(聖属性付与)
すれ違った兵士たちの剣を聖別していく。
冒険者は各自で魔力を扱えるみたいなので、いらないかな。スケルトンもゾンビも、ただの剣で倒そうとすると身体を破壊し尽くすしかないので、手間な上に刃こぼれで剣が使い物にならなくなる。
魔力はまだ少しならある。これで兵士の生存率が上がるなら、惜しまず使うべきだろう。
(いた!)
アレンは混戦状態の最前線にいた。もう、なんで強くないのにそんな頑張っちゃうの。
隣にはカールと、薄手の革鎧を着た細身の男が並んでいた。今回カールは指揮官ではないから、代わりに危険な役目を担っているんだね。
「セレナ!」
アレンが先に気が付いてくれた。目の前のスケルトンを斬るというより無理やり押し飛ばすと、カールが首を跳ねた。
「良かった、無事で」
(そっちこそね)
目を細めて笑ったアレンに目立つ傷はなく、ひとまずほっとする。アレンとカールの剣に聖別を掛ける。聖属性が付与された刃は、うっすら白く光った。
カールは私に一瞬だけ目を向けたけど、何も言わない。まだ半信半疑って感じかな。
「アレンくん、危ないっすよ。離れるっす!」
迫りくるスケルトンソルジャーを籠手で粉砕した男が、眉を顰めた。ていうか、なにあれ? ただ殴っただけなのに全身の骨が粉々になってるんだけど、どんなギフト?
風貌から、たぶん冒険者だよね。空色の髪を束ねていて、まだ若い。たぶん、アレンと同じくらい。なのに、抜き身の刀のような鋭い空気を纏っている。握られた両拳のガントレットは、荒々しい魔力を纏っていた。
「ニコラハム、大丈夫だ! こいつは味方なんだよ」
「味方っすか……?」
ニコラハムと呼ばれた冒険者は、胡乱な目で私を見た。
まあ、信じられないよね。見た目は完全にただのレイスだもん。
「ならいいっす」
「え?」
存外にあっさりと了承したニコラハムに、アレンが目を点にする。私も同じ気持ちだ。
そんな反応をされたのは初めてのことで、さらなる説得の言葉を用意していたであろうアレンが言葉に詰まる。
「魔物にも色々いるっすからね。アレンくんが言うなら信じるっすよ」
それは、冒険者として魔物と多く関わってきたからこその言葉なのだろうか。
確かに、私も魔物になって分かった。魔物にも知性がある者もたくさんいて、暴れたり人間を襲ったりするだけじゃないんだ。今はファンゲイルの命令で攻めてきているけど、スケルトンソルジャーたちは砦の中で人間のように暮らしていた。
「あ、ああ。助かる」
ニコラハムは拳を合わせて魔力を滾らせると、アンデットとの戦いに戻っていった。
彼の戦いは凄まじい。軍勢の多くは前回もいたスケルトン系統やゾンビで、耐久性が高い魔物ばかりだ。それを、彼は単独で次々と撃破していく。
「
ゾンビが五体ほど密集する場所に、ニコラハムが滑り込むように躍り出た。左拳に獣を思わせる獰猛な魔力を纏い、先頭の一体に叩きつけた。命中したゾンビは炸裂してはじけ飛び、背後にいたゾンビも衝撃波で吹き飛ぶ。
「にひひ」
腐った血肉が飛び散って身体が汚れるのも厭わず、楽しそうに笑った。
「余裕っすね」
(冒険者強くない!?)
これは、頼もしい味方がいるみたいだね。
私も頑張ろう。
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