第44話 勝った!
(勝った!!)
ゴズとの遭遇は想定外だったけど、なんとか少年を守り切ることができた。
レイニーさんが来てくれなかったら絶対に勝てなかった。私の攻撃力では、ゴズの守りを突破することができないからだ。
聖域と破邪結界を解除して、レイニーさんに向き直る。ポルターガイストを操作して、背にいる少年をゆっくり降ろした。
「あはは!」
(いえーい)
右手を上げてハイタッチ。
レイニーさんは手を半分だけ上げて、すぐに降ろした。私から目線を外し、少年の前にしゃがみ込む。
「よく頑張りましたね。歩けますか?」
「う、うん……」
少年は涙と鼻水でぐちょぐちょの顔を袖で拭って、立ち上がった。その手には変わらず薬草が一束握られている。平民や農民がよく使う、風邪に効くという薬草だ。お母さんを助けるために自分で取りに来るなんて偉いね。
タイミングが悪くてゴズに襲われることになっちゃったけど、それでも手放さなかったのはすごい。きっと優しい青年に育ってくれるだろう。
「魔物はまだいるでしょうから、わたくしが安全なところまでお連れしますね」
そう言って、レイニーさんは少年の手を取った。私が連れて行こうと思ってたけど、彼女に任せれば安心だ。私ではついてきてくれるか分からないし、村に行ったら騒ぎになるに違いない。
少年がしっかりと握り返したのを確認して、レイニーさんが立ち上がり再度私を見た。
「さて、あなたについては……この子を助けたことに免じて、今は攻撃しません。どこへでもお行きなさい」
聖女の魔法を見たからといって、レイスが聖女セレナだと安易に認めるわけにはいかない。でも、とりあえずは見逃してくれるみたいだね。視線にも敵意はなく、どこか悲し気だ。
「ここに来るまでに、魔物の大群とそれを迎え撃つ者たちを見ました。予想よりも遥かに早いですが、魔王ファンゲイルの侵攻が再開されたと見て間違いないでしょう。ギフテッド教は、聖女様を害した王国を助ける気はありません」
(そうか、私が処刑されたことで王国との関係が悪化しちゃったんだね)
だって何も悪いことしてないのに、王子が勝手に処刑したんだもん。私は聖女として皇国に属しているから、王子にそんな権限はないのに。
王子は身内に権力を与えたかったんだろうね。あの子爵令嬢の家はお金もあるし、次期国王として地位を盤石にしたかったんだと思う。最初は私を直接取り込もうとしたけど、それが失敗したから別の聖女を擁立しようと……。
そのせいで今の事態を招いて、国王になるどころか国存続の危機に瀕している。
「いいですか? 魔王は強大です。今の牛頭の魔物とて、戦力のほんの一部でしかありません。皇国から本隊を呼ばねば対応できない事態なのです」
ゴズもメズも、幹部ですらないらしいからね。
皇国の聖騎士団が王国を助ける義理もないし、たとえ派遣されたとしても間に合わない。
「ですから、王国を守ろうとするのは無謀なのです。国内にいる程度の兵士や冒険者だけでは、本気で攻め落とそうとしてくる魔王を撃退するのは不可能。そもそもなぜ魔王がこの国に執着するのかは謎ですが、諦めて隣国にでも亡命した方がよろしい」
独り言のように、あるいは言い訳するように事実を並べていく。
なんで私に言うんだろう。
「分かったなら、無駄なことをするのはおやめなさい。あなたはいつも自分を殺して……いえ、なんでもありません」
レイニーさんは少年の手を引いて、離れていく。私はそれを呆然と見送った。
私は何と言われようと、アレンと共に王国を守る。この国には大切な人たちがたくさんいて、思い出もたくさんある大切な故郷なんだ。
「わたくしは手を引きます。正直に言えば、魔力がもう心許ないです。ここに来るまでにも相応に使いましたし、聖女様のように無限にあるわけではないのです」
(私だって無限じゃないよ!)
レイニーさんには立場がある。一人で行動しているところを見ると、私と会うために戻ってきてくれたのかもしれない。それでも長くギフテッド教から離れるわけにはいかない。引き止めるわけにはいかないんだ。
「道中の魔物はお任せを。それと、この子は間違いなく送り届けます」
名残惜しそうに、レイニーは踵を返した。
「あの、えっと、ありがとう!」
少年が晴れやかな笑顔で振り向いて、手を上げた。
この笑顔を守れただけで、頑張ってよかったと思う。
「あははは!」
次はアレンと合流して軍勢と戦わなきゃ!
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