第31話 これはいける!

 アレンがこじ開けてくれた道を通って、包囲から抜け出した。といっても最前列にいたから、スケルトン一体分の隙間で十分だ。

 到着してすぐに私の姿を発見して助太刀に来てくれたのかな。昔から私を見つけるの上手いよね、アレン。


「アレン! あまり前に出ないでよ!」


 後ろから走ってきたのはカールだ。私たちの五つ年上のお兄ちゃんで、剣術の腕を見込まれて兵士になった秀才。

 その後ろには筋骨隆々の兵士たちがたくさんいた。二十人くらいかな。みんな、アレンの呼びかけに応じてくれたんだ!


 空がうっすらと赤く染まり出した頃でまだ日が沈み切るまで時間はあるから、ベストなタイミングで来てくれたと思う。


 喜びのあまり手を振って輪に入りたくなるけど、レイスが突撃してきたら大パニックになるよね。ちょっと離れたところから様子を伺う。剣を一振りしてスケルトンたちから距離を取ったアレンが、兵士の方へ戻っていった。


「悪い!」


「いや……それにしても近くで見るとすごい数だね。僕たちだけじゃ厳しそうだ」


 少し減らしたとはいえ、魔物はまだ九十体ほど残っている。それも人間とは違い疲労しないアンデットだ。兵士一人につき三体倒してもまだ足りない。


「冒険者ギルドへの要請はどうなったんだ?」


「一応向かわせたけど、来てくれるかは五分五分かな……とりあえず目の前の敵に集中しよう」


 十歩ほどの距離に魔物の大群がいるというのに、カールは落ち着いている。後ろの兵士たちはどこか浮足立っている様子だったが、振り向いたカールが剣を掲げたことで目の色が変わった。


 兵士は魔物戦が専門ではないが、日ごろから訓練に励む精強な男たちはスケルトンくらい物ともいないと思う。でも、如何せん数が多い。

 スケルトンの骨は脆いとはいえ、何体も斬っているうちに刃もダメになるだろう。


(ちょっと魔力たくさん使っちゃうけど……聖属性付与)


 こっそり放出した魔力が、アレンやカールたちの剣に吸い込まれていく。勘の良い兵士は剣を見て「これは……」と呟いている。


 厳密には魔法ではないが、聖女として活動していく中で身に着けた技術だ。聖属性の魔力を物質に付与し、保護する。いわゆる聖別やお清めと呼ばれるもので、アンデットに対して高い威力を発揮するようになる。


 身体から魔力がごっそり減った。魔法生命体である霊体は魔力と魂でできているから、身体自体軽くなった気がする。


 たくさん魔力使って聖別したから、兵士たちに頑張ってもらうしかない!


「総員、突撃!」


 カールの合図で、兵士たちは一斉に動き出した。


 アンデットは足並みを揃えて進軍しているように見えるが、近くに人間が来ると嬉々として襲い掛かった。だがある程度離れたところにいるアンデットは興味を示さず、静かに歩くのみだ。


「めっちゃ切れるぞ!」


「なんだこれ、まるで魔法のような……?」


「ふふふ」

(久々に聖女として人に感謝されてる!)


 聖別された剣はスケルトンの骨を容易く真っ二つにし、物言わぬ骨に変えていく。温存して死者でも出たら大変だもんね。


「おびき出して少しずつ撃破しましょう! カール隊長、これ、勝てそうですよ!?」


 それに気が付いた兵士の一人が声を張り上げる。


「そうだね。でも油断しないように」


 兵士がどれだけ強くても、囲まれてしまったら物量で押し負ける。それを防ぐために、動きが単調で誘導しやすい低位の魔物を集団から切り離して各個撃破するのだ。


 さすがの連携と言うべきか、四、五人ずつの小隊に分かれた兵士たちは次々とアンデットを倒していく。

 ソルジャー、メイジ、アーチャーなどの上位スケルトンも、実力のある小隊長クラスの兵士が危うげなく処理する。


(いける! これはいける!)


 弱い魔物はみんなに任せて、エアアーマーを倒そう。さすがに剣の通用しない相手は、兵士には荷が重い。


 エアアーマーを探してさまよっていると、アレンが近づいてきた。


「セレナ、なんとかカールを説得できた。こんなにいると思わなかったけどな」


 ありがとう、という意を込めて両手を上げて丸を作った。

 アレンがいてくれてよかったよ。おかげで、なんとか街を守れそう。


「セレナのおかげだ。教えてくれなかったら大変なことになるところだった。この数の魔物が街に辿り着いていたら、かなりの犠牲が出たと思う。これが終わったらきちんとカールに話そう。もっとも、それも無事勝ってから、だな」


「あははは!」


「はは、魔物になっても笑い方変わってないな」


 二人で笑い合って、魔物を食い止めるべく別れた。

 エアアーマーは残り四体。攻略法は一体目で分かった。


 ポルターガイストは、魔力を操って物を掴むというスキルだから魔力消費が少ない。あくまで物を動かすスキルで破壊には向かない分、一度出した魔力は消費されずに使い続けることができるのだ。


 火に魔力という薪をくべるのが魔法なら、薪そのものを使うのがポルターガイストである。使っても減ったりしない。


(見つけた!)


 聖別で魔力を大幅に消費した分、ここで使いすぎると魔力切れになる。


(節約節約……ポルターガイスト)


 要領は一体目と同じだ。

 両手を前に出して、手の延長線上に魔力があるイメージ。それを使ってがっしりとエアアーマーを挟み込む。


 剣を奪って、兜を摘まみ上げる。


(ふんぐーーーー)


 乙女らしからぬ声を心の中で叫びながら、兜を引きはがしにかかる。


 魔力を知覚できないギフトなしの兵士から見たら、エアアーマーがひとりでに浮き上がっているように見えるだろう。見えない攻撃と、もがき苦しむエアアーマーの攻防はすぐに終わりを迎えた。


(近づかれなかったら私に分があるね!)


 すかさず近づいて、魂をぺろりと平らげる。


 うんまーい!

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