第30話 カチャカチャ
足止めと言っても、大規模に結界や聖域を展開することはできない。惜しげもなく魔力を使い放題だった生前とは違うのだ。
(ゾンビの方が厄介そうだよね。少しでも数を減らそう。ファイアーボール!)
代わりに、私はゾンビを中心に少しずつ魔物を倒すことにした。
最前列のゾンビが火だるまになり、燃え尽きていく。ファイアーボールは魔法の炎だから、物質的な炎と違い相手の魔力や属性、弱点によってダメージが変わる。ゾンビは炎が弱点なので、よく燃えるというわけだ。
ゾンビを一体倒している間に、周りのスケルトンやゾンビたちがわらわらと集まってくる。しかし動きが遅く反応も鈍いので、私はなんなく抜け出した。
(一体倒せば周りは私を探してうろうろするから、歩みが止まるんだよね。これで結構足止めになるかも)
最前列で動きが止まれば、その後ろに続く魔物たちも前には進めない。
全体で見れば微々たるものだけど、あちこち移動しながら一体倒して離脱を繰り返すことで結構な時間を稼げたと思う。アレン早く来て!
「カチャカチャ」
(ん? ううぉっ)
すぐ後ろから音がして、黒マントの端を剣が掠めた。慌てて飛び退いたけど、身体の一部であるマントが切られたことで激痛が走った。
振り返ると、そこにいたのはエアアーマーだ。空っぽの全身鎧が両手で握る剣は、吸い込まれそうなほど黒い魔力を纏っていた。
(これが『虚無斬り』……やっぱり霊体にもダメージを与えてきたね)
さすがに暴れすぎたのか、指揮官の怒りを買ったようだ。
エアアーマーも話すことができない魔物だけど、立ち姿から憤りがひしひしと感じられる。Dランクにもなると自我が芽生えるのかもしれない。
(わざわざ最前列まで出張ってきたってことは、私を倒しに来たんだよね)
どの道倒さなければいけない相手だ。
エアアーマーは近距離攻撃しかできない。周囲に気を付けつつ後退して、大剣の間合いから出た。
(ホーリーレイ)
すかさず聖属性の魔法を放った。エアアーマーは咄嗟に身を傾けたけど、避け切れず肩に命中した。
スケルトンであれば一撃で魂を大幅に消耗させることのできる魔法だが、物理魔法ともに耐性を持つエアアーマーには効果が薄い。全くのノーダメージというわけではないけど、鎧を貫通することはできなかった。
(鎧に守られているせいでソウルドレインも効かないだろうし、まずは鎧をなんとかしないと……)
試しにファイアーボールを放つが、鎧に弾かれて明後日の方向へ飛んでいってしまった。
いとも簡単に攻撃をいなしたエアアーマーは、ぐっと一歩踏み出して地面を蹴った。
(早い!?)
ゴズメズほどじゃないけど、かなりの速度で肉薄してきた。ファイアーボールを撃った直後の私は逃げきれない。
(聖結界、二枚重ね!)
メズに一瞬で割られたことを思い出して、咄嗟に二枚の物理結界を私の前に展開した。見えない壁のような結界は、エアアーマーの刃を受け止める……はずだった。
(え……?)
『虚無斬り』は聖結界などなかったかのように、一切減速せずに薙いだ。切っ先は私の腕を深々と切り裂き、魂を削り取られる痛みに絶叫する。もう少し距離が近かったら真っ二つにされていたに違いない。
(防御不可!?)
そうとしか思えない効果だ。
腕を抑えながら後退する私を、今度は上段から振り下ろすことで追撃してくる。
「カチャカチャ」
聖結界じゃだめだ。さっきは物理に厚く作ったから、もしかしたら魔法防御寄りの結界にしたら防げるかもしれない。だが、それより上位の結界がある。
(結構消費大きいから使いたくなかったけど……破邪結界)
聖結界が物質や魔力の『通過を防ぐ』ものなら、破邪結界は『通過したものを破壊する』結界だ。
無理やりぶつければ攻撃にも転用できる結界だが、今回は『虚無斬り』を食い止めるために使用する。
横薙ぎに比べ、振り下ろしは剣の重さも加わってすさまじい威力を誇る。勢いよく落とされた大剣は、破邪結界にぶつかった。二つの魔力が拮抗して、攻撃が停止する。
(よし、剣の破壊まではできなかったけど、魔力は消せたみたい!)
しかし、ホーリーレイもファイアーボールも通用しないという状況は変わっていない。
破邪結界をぶつけても、剣よりも硬いであろう鎧を突破するには至らないだろう。
(じゃあこれなら? ポルターガイスト)
厳密には攻撃ではない、魔力で物を掴むスキル。
私はこれを使って、エアアーマーの身体を包み込んだ。見えない縄に縛られたように、エアアーマーが動きを止める。
まずは腕を縛り上げ、剣を奪いとった。そして兜を魔力の腕でわしづかみにする。
(これを脱がせれば……!)
どういう原理なのか、空洞のはずなのに兜がくっついてなかなか離れない。エアアーマーは両手で頭を抑えて抵抗する。
それでもポルターガイストの方が力は上だ。エアアーマーの魂から引き剥がされた兜は、急速に重さを失って遥か上空にすぽん、と飛んでいった。空っぽの中身が露わになる。
すなわち、魂が露出したということだ。
(ソウルドレイン!)
今度は鎧の中から魂を引きずり出す。内側からの攻撃には弱いようで、難なく剥がれ、吸収することに成功した。
魂を失いただの鎧となった胴体は、カチャカチャと音を立てて地面に転がった。
(やった! 強敵だったけど勝てたしすっごい美味しい!)
こんな時でも魂の味を楽しんでしまう。
Dランクとは思えない強さだった。一応レイスも同じランクのはずなんだけど、エアアーマーは戦闘特化って感じだったしこんなものかな。
エアアーマーが攻撃している間は遠巻きに見ていたスケルトンたちが、弔い合戦とばかりに敵意をむき出しにした。
死闘のあとで気が抜けていた私は即座に撤退を判断する。
(って、後ろにもいる!?)
思いのほか囲まれてしまったようだ。
仕方なく強硬突破しようと、聖属性の魔力を右手に集める。
その時、逃げ道を塞いでいたスケルトンが何かに突き飛ばされて転がった。
「セレナ! 待たせた!」
(アレンだ!)
てことは、兵士たちが来てくれたのかな?
殲滅開始だ!
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