第28話  まっっず!

 だいたいの戦況と作戦を整理できたところで、さっそく行動を開始する。

 およそ百体の軍勢はまっすぐ街道を進んでいて、孤児院のある街、ひいてはその先の王都を目指していることは間違いなさそうだ。タイミング的に、私がファンゲイルの砦に入る前にはもう出発していたのだろう。


 つまり、ファンゲイルは聖女の結界が消えてすぐに軍勢を用意したことになる。常日頃から虎視眈々とその時を待っていたのだろう。あるいは、結界をどうにかする算段があったのか。


(でも準備は万全じゃない)


 ファンゲイルはゴズメズに命じて戦力の増強を図っていた。急に結界が消えたから戦力が十分でなく、ひとまず様子見といったところだろうか。

 なんとか対処できそうな数でよかった。


 一番多いのはスケルトン系で、人型スケルトンしかいないように見える。まあカラスのスケルトンとか弱いしね。ランクEのスケルトンだと一番大きくて人骨しか動かせないから、人型スケルトンが強さ、調達のしやすさともに好都合なのかな。


(アレンが兵士を連れてくるまで、どのくらいだろ。足止めくらいはしようかな)


 ただのスケルトンならオニビの時から倒しまくってたから、それほど消耗せず倒せると思うんだよね。

 試しに集団の中で前の方にいるスケルトンに近づいてみる。森の中にいる個体と違って、近づくだけでは襲って来ない。


(私がレイスだから仲間だと思ってるのかな?)


 アンデットは襲わない、みたいな命令でもされているのかもしれない。じゃないと街に着く前に内輪もめ始めちゃうもんね。そういえば、砦の中にいたアンデットたちも争ってる様子はなかった。


(普段は野生のまま放っておいて、必要な時だけ支配する感じなのかな?)


 私の場合はむしろ、その命令のおかげで襲われずに済んでいるわけだ。

 それなら好都合。一方的に攻撃させてもらおう。


(ホーリーレイ!)


 やることはいつもと変わらない。これしか攻撃魔法もってないからね!

 私のことを無視してカタカタと歩みを進めるスケルトンの眉間を撃ち抜いた。スケルトンの動きは遅いから外すことはない。


(ソウルドレイン。らっくしょう!)


 周りのスケルトンが一斉に私を見た。げ、さすがに攻撃したら反応しちゃうんだ。

 聖属性の魔力は天敵だからね。完全に私を脅威認定したスケルトンたちが、腕をや剣を振り上げて魂を削る一撃を放ってくる。


(ひぃいいい、この数は無理!)


 即座に物理結界を張って、隙間を縫って包囲から抜け出した。

 五体くらい同時に動き始めたせいで腕や足がぶつかり、互いの動きを阻害しあって転んでいる。地面に倒れた衝撃で骨がばらばらになったり頭が転がったりしてるけどすぐに骨同士が集まって立ち上がった。ひとりでに骨が動いてスケルトンになるの怖い。


(ちゃんと魂まで消すか、再集結できないくらいパーツを遠くに運ぶか、骨を砕くかしないと復活しちゃうんだよね)


 兵士だと、砕くのが一番かな? そんなに粉々じゃなくても、主要な骨を割れば大丈夫なはず。

 あとは魔法を使えるギフトの人がいれば、魂にダメージを与えて倒せるね。


(次はゾンビを倒してみよう!)


 私が通って来た道のりにゾンビはいなかったから、砦ですれ違ったのを除けば初遭遇だ。

 突然いなくなった私を探して右往左往しているスケルトンたちから離れた一群に近づき、ゾンビと対峙する。


 ゾンビは人間や動物の死体にヒトダマが取り憑いて動く魔物だ。スケルトン同様に痛みを感じず、疲れない。筋肉は腐敗しているため特別力が強かったり動きが速かったりはせず、むしろ余計な肉がついているせいでスケルトンより遅い。


 私の目の前にいるゾンビは成人女性の姿をしているが、肌は青ざめ目や舌はだらしなく垂れ下がっている。


(死してなお無理やり身体を動かされている哀れな女性に救いを。ホーリーレイ)


 骨と違って、腐肉のついた死体というのはかなりショッキングだ。この人も死ぬ前は魔物になって徘徊するなんて考えてもなかっただろうな。元の意識は存在しないとはいえ、肉体も安らかに眠らせてあげたい。


 ホーリーレイは寸分たがわず眉間の中心を撃ち抜いたけれど、ゾンビの動きは止まらない。


(うー、やっぱり一発じゃだめだね)


 ゾンビがスケルトンに比べ優れている点、それは耐久力だ。

 仮初とはいえ肉体で覆われているので、それによって魂が保護されているのだ。ホーリーレイも当たった部分が浄化されるだけで倒すには至らない。


(兵士さんが相手する場合もスケルトンより大変そう……切っても切っても向かってくる死体とかやだよぉ)


 とりあえずホーリーレイを何発か当ててみると、三発当てたところで動きが止まった。すかさず魂を喰らう。


(まっっず!!)


 なにこれ!

 取り込んだ瞬間、全身を言いようのない不快感が襲った。それこそ、誤って腐った肉を口に入れてしまった時のような気持ち悪さだ。

 うげぇ。私が地面を転がって悶絶していると、別のゾンビが近づいてきた。


「ぺちゃぺちゃ」


(ゾンビのスキルは……アシッドアタックだっけ)


 神託で得た情報を思い出す。

 物理攻撃に毒を付与するスキルだ。もはや毒と言ってもいい魂に侵されている私は、それを避けることができない。

 しかし、ゾンビの腕は私をすり抜けて地面を叩いた。


(死霊強いじゃん!)


 ゴズメズやスケルトンが当たり前のようにダメージを与えてくるので忘れてたけど、純粋な物理攻撃は無効にできるんだ!

 となれば、ゾンビは敵じゃない。問題はホーリーレイを三発も使わされるところだよね。


 ようやく身体の感覚が元に戻ってきたので、ゾンビに闇魔力を込めた手を向けた。


(こっちならどう? ファイアーボール)


 あまり使う機会には恵まれなかったけど、キツネビの種族スキルだ。魔力量に応じたサイズの火の玉を飛ばすだけの、単純なスキル。余談だけど、魔法使い系のギフトにも同じ魔法がある。


 ファイアーボールは真っすぐゾンビに飛んでいき、着弾と同時にゾンビを包み込んだ。

 魔力を多めに送り込んで炎を維持する。ゾンビが苦しそうに中で暴れ回るけど、逃がさないよ。


 ものの数秒でゾンビは膝をついて、崩れ落ちた。肉体も綺麗に焼けて、シルエットが骨だけになる。


(うん、ファイアーボールの方が良い感じ。ホーリーレイ一発分くらいの魔力で足りるね)


 生前の魔物知識が役に立ったようだ。冒険者の人から聞いたことがあったんだよね。


 派手に戦ってまた魔物が集まりだしたので、戦線を離脱する。

 あちこち荒らしまわるだけなら簡単だけどあんまり足止めにはなってないな。


(スケルトンソルジャーは倒したことあるし、メイジとアーチャーも問題ないと思う。となると……)


 全体の指揮を執っているような動きを見せる、エアアーマーに目をやる。

 五体のエアアーマーは離れた位置にいて、それぞれ周囲のアンデットを統率している。武器は大きな両手剣だ。


(神託だと、ランクDでスキルは『虚無斬り』……ランクは私と同じだけど、攻撃向きのスキルっぽいのが怖いね)


 エアアーマーは大男が身に着けるような全身鎧を身に着けた魔物、のように見えるが、中身は空洞である。例のごとく魂が憑依して操っているのだが、ゾンビよりも耐久力がありスケルトンより素早く攻撃力がある。つまりは単純に強いのである。


 またエアアーマーの周りにも多くの魔物がひしめいているので、他の魔物を無視してエアアーマーとだけ戦うのは不可能だ。


(あとはちょっとずつ戦力を削りつつ、アレンを待とうかな)


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